まず、北朝鮮からロシアへ観光客が訪れることは、まずない。一方、ロシアからエキゾチシズムを求めて北朝鮮に観光に出かける人は存在するが、それは公認代理店によるパックツアーに限られ、年間でせいぜい数百人程度とされる。
もう一つ気になるのは、くだんの列車や直行便が、北朝鮮兵の輸送に使われるのではないかという点である。ただ、これに関しては、可能性は低いようだ。軍人を秘密裏かつ大量に輸送するというオペレーションは、鉄道および航空の一般旅客便にはなじまず、軍用の輸送機・艦船・トラックといった輸送手段(または民間と偽装した輸送手段)が用いられていると考えられている。
ちなみに、一部の報道によると、6月17日に平壌を出発し、8日後にモスクワのヤロスラブリ駅に到着した第一便の列車には、乗客がまったく見当たらず、乗っていたのは乗務員だけだったということである。航空便についても同じような話があり、モスクワ発・平壌着の第一便の搭乗率は20%ほどにすぎなかったという情報が出ている。露朝蜜月を演出するために、鳴り物入りで復活した鉄道と飛行機のモスクワ・平壌便だったが、利用者が伸びないようだと、維持が難しくなってくるかもしれない。
北朝鮮による兵士、弾薬・砲弾の見返り
何と言っても、ロシア・北朝鮮関係で注目を集めたのが、北朝鮮からロシアへの兵器の供給であり、また兵士の派遣だろう。
このうち、弾薬・砲弾を中心とした兵器の供給は、23年に入ったあたりから指摘されるようになり、同年9月に金正恩総書記がロシア極東を公式訪問してプーチン大統領と会談したことを受け、急速に強化されたと言われている。
どのような条件で供給されているのかは定かでないが、金額に換算すると、23年には5億~10億ドル程度分が、24年には12億~20億ドル程度分が供給されたようである。もしこれが前掲の図1に反映されていたら、赤い線が23年に天井を突き破るところだった。
現時点でロシア軍が使用している砲弾に占める北朝鮮製の比率についても、様々な評価が存在するが、ざっくり言うとすでに半分以上は北朝鮮製という状況になっているようである。弾薬・砲弾以外にも、短距離弾道ミサイル(KN-23、KN-25)数十発がロシアに提供されたという情報もある。
それでは、北朝鮮は見返りに何を得ているのだろうか? 確たる証拠があるわけではないが、ロシアは、石油、穀物などの食料、肥料などを北朝鮮に供給しているとの見方が有力である。23年秋以降、ロシア極東と北朝鮮の港湾間で貨物船の往来が増え、陸路でも貨物列車が盛んに行き来している。
22年頃までは、国連やNGO等が北朝鮮の深刻な食料不足を警告していた。しかし、23年後半以降は、北朝鮮から食料の問題はほとんど聞こえてこない。武器供給の見返りとしてロシアが行っている供給が、北朝鮮の食料事情を改善している可能性がある。
