リベラルの保守化と分裂
そんな状況下、クリントン政権のオルブライト国務長官など、政治の表舞台に「リベラルなタカ派」が台頭してきた。
「リベラルな民主党主流が保守化してしまい、リベラルが分裂してしまったのです」
2001年9月11日、ブッシュ(子)政権下で同時多発テロが勃発した。ブッシュ(子)大統領はたちまち「正義の騎士」に担ぎ上げられ、アフガン戦争(01年~)とイラク戦争(03年~)、二つの長期戦に突入した。
テロの首謀者ビン・ラディンが潜むとされた対アフガン戦は「正当な報復戦」の名目があったが、副大統領チェイニーが拘泥した対イラク戦は「大義のない予防戦争」。アメリカ国内では二正面作戦に対し賛否が分かれた。
この局面で浮き彫りになったのが、かつてのヴェトナム反戦派の沈黙である。彼らは大学を中心とした知識人層を形成していたが、愛国熱に煽られた状況の中で、すでに分裂していたリベラルは声を上げられなかったのだ。
結局、アフガン戦争の方はオバマ、トランプを経てバイデン政権まで、約20年に及ぶ「アメリカのいちばん長い戦争」になった。
―― 本文の最後に、ナポレオンの弟のルイ・ボナパルトの警句、「歴史は繰り返す、一度目は悲劇として、二度目は茶番劇として」が置かれています。これは21年8月のカブール陥落と、75年4月のサイゴン陥落のこと?
「はい。ただし、カブール陥落が茶番という意味ではありません。タリバンに追われてアメリカ大使館員たちがヘリでカブールを脱出する、その光景は、世界の人にヴェトナム戦争のサイゴン陥落時のヘリ脱出の様子を想起させた。ヴェトナム戦争の教訓が生かされず、2度までも同様な失敗を犯してしまう不毛さ、そのことを表わしたいと思いました」
約50年前のヴェトナム戦争敗戦の黒く長い影は、ついこの間のバイデン政権のアフガン戦争の終結まで続いていた、ということであろう。ではアメリカは、希代のポピュリストである「アメリカ・ファースト」の第2次トランプ政権の下、その長い影を払拭して、やり直すことができるのであろうか。
「どうでしょう。問題は“トランプ慣れ”した結果、社会が元に戻れなくなる可能性ですね」
生井さんは昨年11月のアメリカ訪問について話した。再会したヴェトナム帰還兵のうち元エリート軍人たちは、「我々ならトランプを頂いた戦争は絶対しない」と言った由。しかし、下士官以下の元兵士たちの中にはトランプ支持者たちがかなりいたとのこと。
「最近、冷戦が崩れた90~91年前後のことをよく思い出すんです。ほんの一時期ですがあの当時、大きな戦争は20世紀で終わり、21世紀にはそんなものなくなるんじゃないか、と思った。私の妄想だったのか、幻想か。……それなのに今見回してみると、ウクライナがあり、パレスチナがあり、アフリカや中東、インドや東南アジアも紛争が絶えない」
ヨーロッパ諸国をはじめ、各地で極右勢力が出現している。経済格差の拡大と社会の分断があちらこちらで進行中だ。「自由の国」アメリカの代名詞だったデモクラシーは、オワコンになってしまったのだろうか。
