2025年12月6日(土)

世界の記述

2025年9月5日

ハイテク時代のEUの防衛

 04年に設立されたEUサイバーセキュリティ庁(ENISA)によると、昨年のEU全体でのサイバー攻撃件数は約1万件、23年7月から24年6月の間最も多かったのはサーバーやネットワークに過剰な負荷をかけ、利用不可能にしてしまうサービス拒否攻撃(DoS)で41.1%、4120件に上った。次いで分散型サービス拒否攻撃(DDoS)、ランサムサービス拒否攻撃(RDoS)であった。

 攻撃対象は、公共行政機関19%、交通運輸11%、銀行・金融9%だ。とくにENISAはロシアのウクライナ侵攻に関するサイバーテロが頻発していることを指摘する。

 クリミア併合を契機に欧州では、サイバーセキュリティ対策がクローズアップされた。17年10月にはEU法相閣僚会議がサイバーセキュリティ行動計画を合意。その後EU常設コンピューター緊急対応チーム(CERT-EU)を設立、19年EU理事会はサイバーセキュリティ法を採択した。

 20年12月にEU「新サイバーセキュリティ戦略」が公表され、本年2月にはその中のひとつである「EUサイバーセキュリティ規制」が発効した。これには将来の共通認証制度導入や事故管理など目的・任務などが定められており、昨年12月にはこうした任務遂行のための連帯強化を目的として「サイバー連帯規制」が採択された。

 これらに加えて、情報共有・交換の民間・公的機関の間の協力が不可欠であることが強調されており、昨年10月には「サイバー・レジリアンス規制」も承認された。一体化と協力によるサイバー攻撃への防衛強化姿勢だ。

複雑な加盟国の対露認識-ブルガリアの真実

 しかしそのための協力は容易ではない。加盟国間には対露認識で大きな隔たりがある。スペインやイタリアではロシアの脅威感は少なく、東欧諸国の間でも認識は一様ではない。

 今回の事件でもポデスタ欧州委員会報道官は、ブルガリア政府が冒頭の事故をロシアによる妨害工作であると疑っていると発表した。しかしブルガリア政府はこの事件をことさらに大きく取り上げることには消極的だった。GPSの支障による小さな混乱とみなそうとしていると伝えられる。

 というのも、ブルガリアには親露派の勢力が強く、この親露派ナショナリストたちを刺激したくないという配慮がブルガリア政府にはあるからだ。ロシアの妨害工作だけでなく、ウクライナ支援にも慎重な姿勢に終始している。

 こうしたブルガリア政府の対応を前に、フォンデアライエン委員長は、「ウクライナ戦争開始当初、ウクライナの兵器の3分の1はブルガリア製だった」と初めて明かした。

 EUの多国間協力の枠組みは合意した時には強い影響力を持つが、そのためのプロセスはいつも容易ではない。欧州のウクライナ支援の根底にある棘だ。

 テクノロジーがもたらす不可抗力の怖さと人の強欲さを露呈させる政治のしがらみの中で誰も望まぬ結果が生まれる。歴史の中の愚かな繰り返しだ。

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