欧州委員会のフォンデアライエン委員長を乗せたチャーター機が8月31日、ブルガリア南部プロフディフ空港に着陸する際に、電波妨害を受けてGPS(全地球測位システム)が機能せず、予定通り着陸できなかった。同機は空港上空を半時間ほど周回し、地図による有視界飛行により無事着陸。同委員長にけがはなかったものの、ロシアによる妨害工作の疑いがあるとして、波紋を広げている。
フォンデアライエン氏は8月29日から、ロシアやベラルーシと隣接する黒海沿岸の欧州連合(EU)加盟7カ国(フィンランド、バルト諸国、ポーランド、ブルガリア、ルーマニア)を訪問していた。同委員長の歴訪は加盟27カ国の防衛・安全保障能力の強化の合意を確認するため。同機にはアンドリウス・クビリウス防衛担当欧州委員も同乗していた。
この背景には、フンデアライエン委員長が8月19日、ウクライナのゼレンスキー大統領とともに、英仏独伊フィン首脳・北大西洋条約機構(NATO)事務総長らと渡米、トランプ大統領との会談に出席し、9月4日にはパリでフランスのマクロン大統領と英国のスターマー首相が共同議長となって開催するウクライナ支援「有志連合」に出席することもロシアを刺激したとみられている。
これまで、ロシアによる欧州諸国代表機関への攻撃はなかった。ロシアが大規模なミサイルとドローン攻撃をキーウに行った8月28日、キーウのブリティッシュ・カウンセル共有事務所の破壊がロシア側の警告であったことは今や明白だ。
EU関係者は今度の件は「決して事件ではない」と語り、ピンポイントの正確な標的攻撃を示唆。フォンデライエン委員長は「ロシアはウクライナに対するテロ行為では一切手を控えることは絶対にありません。それはEU代表機関に対する攻撃と同様だ。それゆえ、私たちはロシアに対する最大限の圧力を維持していきます」と厳しい口調で語った。
この数カ月、バルト海諸国でロシアは電信妨害工作の回数を増大させている。リトアニアではこの電波妨害の件数は、2024年初から22倍に増加している。エストニアでは飛行の85%が妨害にあっていると数えられている。
そうした中でこの6月初めには、ロシアとの国境隣接諸国が中心とする13のEU加盟国が妨害工作に備えた措置の拡大促進を提案するよう欧州委員会に要請している。EU全体としてはサイバー攻撃に対する脅威感は高まっている。
