待ったなしの新たな価値創造
当研究所では、この4月に、経済産業省とともに3Dプリンターについてのシンポジウムを開催した。そこでは、複雑な形状の製品を安価・短時間に製造できる3Dプリンターについて、製造と導入が出遅れている日本の現状と対応の方向についての報告と議論が行われた。
その中で注目されるのが、3Dプリンターの登場で、従来経験の長い職人にしか扱えなかった複雑な形状の製品を新卒者でも製造できるようになったとの指摘である。これは、今後モノづくりの裾野が広がる可能性を予見させる一方、いままで高い技術力と精度でモノづくりを深め、差別化を図ってきた日本企業にとっては脅威にもなる。精密な3Dの図面データさえあれば、職人の技量に関係なく世界中どこでも高度な製品が製造できてしまうからである。
この3Dプリンターの事例に見られるように、豊かな発想でさらなるノウハウをモノづくりに盛り込んでいかなければ、日本が得意とするモノづくりでさえも国際競争力を失っていきかねないところまで事態は進みつつある。
この危機感は、非製造業企業を含めた日本企業全体に共通している。生産性とイノベーションを巡る競争が世界的にますます厳しくなっている折、もっと有能な人材を増やし、設備増強を図ることが欠かせない。加えて、出遅れている知財の充実とソフト力強化を通じて新たな競争力も身につけなければ、厳しい企業間競争に勝つことは難しくなっている。
総合力での競争力強化が不可欠
2013年6月に策定された日本再興戦略では、日本でイノベーションを起こすために知財戦略を抜本的に強化するとしている。そのために、ITを成長エンジンとして活用し、オープンデータの推進や人材育成などを通じて世界最高水準のIT利活用社会の実現を目指すこととしている。
この6月に新たな成長戦略が策定されるが、IT戦略の抜本的強化は一層進めなければならない。しかも、機械設備の投資はあってもソフトウェア投資やIT活用が遅れている日本においては、それは企業のIT利活用を早急に促すものでなければならない。