近頃、テレビなどで「3Dプリンタ」というまさに未来を思わせる、立体物を出力するプリンタを見ることが多くなった。一部には「3Dプリンタが製造業に革命を起こす」などという意見も見られる。しかし、その実際はどうなのだろうか。昨年10月に『デジタルで起業する』(かんき出版)を上梓し、3Dデータを活用する会(3D-GAN)理事でもある水野操氏に3Dプリンタとは何か、そして製造業に及ぼす影響について聞いた。
――最近メディアでも3Dプリンタが話題になっています。また、去年、クリス・アンダーソンの著作『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』(NHK出版)も話題になりました。本書でも「気軽に世界レベルの仕事ができるようになった」とあります。こういう状況の要因として、本書では「環境と道具」だと指摘されています。まずその環境とはどういうことでしょうか?
水野操氏(以下、水野氏):ひとつは眼に見える物理的な環境があげられますね。3Dプリンタだけでなく、データを作るためのソフトやコミュニケーションツールとしてのソーシャルメディア。そういった環境の出現により、データを作り、コミュニケーションを図り、実際に形を作るといったことが、そのレベルはともかくとしてプロでなくてもできるようになりました。
また、一昔前であれば「自分でモノづくりをするしメーカーになりたい」と考えても親や同僚から、起業自体を止められることが多かった。しかし、最近ではひとりでビジネスをやるような人が増えていると感じます。たとえば、コワーキングスペースへ行くと、モノづくりに限らず小規模の新しいビジネスを立ち上げている人たちがこんなにもいるのかということに驚かされます。近頃では、世間的にも起業すること自体のハードルが下がっていると思います。
さらに、最近では今までなら大企業しかやらなかったような最終製品の製作を、中小製造業の会社がベンチャー企業などの若い人たちと手を組んで製作するようになった。その背景にはそれら中小製造業も代替りし、二代目、三代目の経営者が新しいことをやっていこうという思いも間違いなくあります。しかし、幸か不幸か長引く不況で大企業からの下請け仕事が減少し、逆にそれまで手を出せなかった最終製品を作る部分まで進出できるようになった。
こういった3つの環境がうまく組み合わさった結果が大きいですね。