目次をざっとあげても、「宇宙は無限にあるのか? ―マルチバースと人間原理」「シリコンとシリコーン」「情報伝達物質で進化の過程をたどる」「『一家に1枚周期表』に見るわが国の科学技術の強さ」「気象・気候変動予測の最前線」「サフランに魅せられて」「直鎖から立体へ ―生物がタンパク質を作るときに用いるユニークな方法」「ヒトとチンパンジーのあいだ ―ヒトはどのように特別な類人猿か」……など、刺激的なタイトルが並ぶ。
「何をおいても聴きに行きたい! 」と思うようなテーマばかりだが、私は、柴田徳思先生の「放射線について―研究の歴史」に興味をひかれた。
東京大学、高エネルギー加速器研究機構などの名誉教授をへて、日本アイソトープ協会常務理事を務める柴田先生が、量子力学という理論が成立していく過程を、放射線研究の歴史をひもときながら解説している。
放射線の研究から原子の構造がわかってきて、それを説明するには量子力学を使わないとできないこと。素粒子の研究が宇宙の始まりの研究につながるのだが、その基礎をこしらえたのが放射線の研究だったこと。量子力学と聞くだけでポカンとしてしまう私でも、なんだかわくわく、心が躍った。
「対話の時間」では、「電子の数でこんなに性質が異なるのはどうしてですか」とか、「核兵器に使われているウランやプルトニウムを爆発しないような物質に変えるとか、あるいは不完全爆破させるとかそういうアイデアはないのでしょうか?」など、鋭い質問が投げられる。
対する柴田先生の答えは簡潔でわかりやすく、すっと腑に落ちる。この応酬、臨場感たっぷりで、じつに密度が濃い。手に汗握るウィンブルドンの決勝か、ワールドカップの日本戦を見ているように興奮する。
サイエンスの楽しさ、未来への希望を
伝え続けたい
京都大学名誉教授の玉尾皓平先生による「一家に1枚周期表」の制作裏話も、カラー口絵の「元素周期表」とつきあわせながら読むと、楽しさが倍増する。
ただし、口絵では周期表の説明文が小さくて読みにくい。やはり玉尾先生がおっしゃるように「一家に1枚」、このユニークな周期表を入手して掲示しなければ!
カラーイラストと簡潔な紹介文からなる周期表で「示したかったこと」を、玉尾先生は二つあげる。ひとつは、「私たちの体も元素でできている」ということ。もうひとつが、「20世紀後半の科学技術の進展とその恩恵」である。