2025年12月5日(金)

BBC News

2025年12月4日

ピート・ヘグセス米国防長官

米政府高官らが今年3月、イエメン空爆の機密情報を民間通信アプリのチャットで協議していた問題で、調査を進めていた米国防総省の監察総監室は、ピート・ヘグセス国防長官が国防総省の方針に従わず、軍関係者を危険にさらした可能性があると指摘した。

高官らは、民間アプリ「シグナル」のチャットグループで、目前に迫っていたイエメンの反政府勢力フーシ派に対する空爆を議論していた。このことは、ジャーナリストが誤ってチャットに追加されたことで初めて明らかになった。

監察総監は、ヘグセス氏には自分が共有した情報が機密扱いではないと判断する、あるいは安全に機密解除できるかを判断する法的権限を有していたと結論づけた。

ヘグセス氏は調査結果について、「機密情報は一切なし。完全な潔白」が示されたと述べた。

チャット内容の流出は「シグナルゲート」と呼ばれ、トランプ政権の2期目開始から間もなかったホワイトハウスを揺るがした。

この事態は、政権の国家安全保障上の慣行や、機密情報を規定する法律の順守に関して重大な疑問を投げかけた。

監察総監室の面談を拒否

このチャットの存在は、当時国家安全保障担当補佐官だったマイク・ウォルツ氏が、誤って米誌「アトランティック」のジェフリー・ゴールドバーグ編集長をグループに追加したことで明らかになった。

同誌が公開したチャットは、ヘグセス氏が具体的な標的や攻撃のタイミング、使用される兵器の種類について議論していた。

これらの情報は「SECRET//NOFORN」とラベル付けされた機密メールから抽出されたものだった。このラベルは、内容が秘密であり、公開されれば国家安全保障を損なう可能性があること、さらに外国籍の人物が閲覧してはならないことを意味している。

監察総監は、ヘグセス氏が「国防総省のすべての情報について、必要な機密区分を決定する権限を有している」と結論した。

しかし監察総監室は、シグナルによるやりとりが軍にリスクをもたらしたことも指摘した。

報告書は「個人の携帯電話を使って公務を行い、非公開の国防総省情報をシグナルで送信することは、機密性の高い国防総省情報の漏洩につながる恐れがあり、同省職員や任務の目的に損害を与える可能性がある」と述べている。

報告書によると、ヘグセス氏は監察総監室による面談を拒否し、代わりに書面で声明を提出した。

また、監察総監が調査で入手できたのは、ヘグセス氏の個人の携帯電話にあった「シグナル」のメッセージの一部のみだった。

そのため、「完全な記録を得るためには、アトランティック誌が公開した書き起こしに一部、依拠せざるを得なかった」としている。

トランプ政権は、チャットで共有された情報が機密扱いだったことを否定している。監察総監は、ヘグセス氏が投稿前に正式に機密解除を決定したかどうかを判断していないが、同氏にはその権限がある。

報告書を受けて、ヘグセス氏はXに、「機密情報はない。完全な潔白。事件は終わった。フーシ派は爆撃で屈服した」と投稿した。

また、「このIG(監査総監)報告書に注目してくれたことに感謝する」と投稿を締めくくった。これは、ドナルド・トランプ大統領がソーシャルメディア投稿の末尾で頻繁に使う言い回しを踏襲している。

チャットをめぐる調査は、共和党が主導する上院軍事委員会の要請で行われた。

アメリカでは、連邦政府の主要な省庁のほとんどに監察総監室が置かれており、独立した立場で監査や調査を実施している。

国防総省の報道官は報告書について、「ヘグセス長官の完全な潔白を示すものであり、当初から分かっていたことを証明している。機密情報は共有されていない」と述べた。

ホワイトハウスのキャロライン・レヴィット報道官も、報告書が「機密情報は流出しておらず、作戦の安全性は損なわれていないことを証明している」と語った。

一方、上院情報委員会の民主党筆頭議員、マーク・ワーナー議員は、報告書が議会に提出された後、ヘグセス氏に辞任を求めた。

「国防総省の内部監察官による客観的で証拠に基づく調査は、疑念の余地を残さない。ヘグセス長官はアメリカのパイロットの命を危険にさらした」とワーナー議員は声明で述べた。

また、調査では、ヘグセス氏がシグナルで使った他の非暗号化チャットの設定が確認されたと指摘。「これは単なる一度きりの過失ではないことを浮き彫りにしている。度重なる軽率さと判断力の欠如を示す広範なパターンであり、長官が職務を遂行する能力を欠いていることを繰り返し示している」と述べた。

国防総省のトップとして100万人以上の兵士を率いるヘグセス氏は最近、米海軍が9月にヴェネズエラの麻薬運搬船だとする船を攻撃した件でも注目されている。

米紙ワシントン・ポストは先に、ヘグセス氏の「全員殺せ」との命令を受けて、1回目の攻撃を生き延びた船上の複数人に対して2回目の攻撃が実施されたと報じた。

同氏はこの報道を否定し、標的への2度目の空爆で生存者が殺害されたことについては知らなかったと述べている。

(英語記事 Hegseth could have endangered troop safety with Signal chat - Pentagon watchdog

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cgked87vx0lo


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