戦争を始めるのは簡単であるが、終わらせるのはひどく難しい。ウクライナ戦争は、2022年2月24日のロシアによる全面的侵攻開始から数えても既に3年10カ月が経過しており、14年2月のクリミア侵攻から数えれば、実に10年以上の長きにわたっている。
米国代表団が11月20日、停戦・和平に関する28項目の「米国案」をウクライナに手交して以来、米、ウクライナ、ロシア、そして欧州を巻き込んだ外交が目まぐるしく展開されているものの、その決着がつかず今日に至っている。これは、ロシアとウクライナはじめ各国の思惑が大きく異なっているためである。
ただ、ロシアとウクライナの継戦能力は確実に低下しており、戦争を終わらせるタイミングになりつつある。各国はどのような実情を抱え、どう交渉に進んでいるのか。米国の仲介外交の〝現場〟とも言えるベルギーの首都ブリュッセルを12月上旬に訪問し、ウクライナや欧米の関係者と面談した内容も踏まえて検証してみたい。
関係国の思惑の差
和平実現のための基本的考え方において、ロシア、ウクライナおよび米国の三者間には明確な差がある。
侵略されているウクライナは、当然ながら「公正で、持続可能な和平」、言い換えれば、国家としての主権、独立および領土一体性が守られ、将来再びロシアが侵略してこないという保証を含む和平を渇望している。
侵略しているロシアは、クリミア半島および東部ドンバスの割譲はもちろんのこと、「根本的な原因」の解決、すなわち、ウクライナを自国の勢力圏下に置いて支配し、北大西洋条約機構(NATO)を弱体化することを狙っている。
仲介者である米国は、「早期の和平」実現を急ぐあまり、この戦争の歴史的経緯や第二次世界大戦後の国際秩序に与えた影響を十分斟酌しないまま、侵略国ロシアの言い分に配慮し、ウクライナに圧力をかけて、とにかく関係国間の「取引」を成立させようと試みている。
