4日夜にインドを訪れたロシアのウラジーミル・プーチン大統領は5日、ニューデリーでナレンドラ・モディ首相との首脳会談に臨んだ。
この日の公式日程は盛り沢山だった。プーチン氏は朝には、大統領官邸ラシュトラパティ・バワンで儀仗兵のあいさつを受け、夜にはその同じ官邸で夕食会に臨んだ。
プーチン氏は日中にはモディ首相と会談し、ビジネスフォーラムに出席し、クレムリン(ロシア大統領府)が資金提供する国営テレビネットワーク「ロシア・トゥデイ」の開局を発表した。
プーチン氏は、2022年2月にウクライナ全面侵攻を開始して以来、外交的に孤立してきた。それだけに、インド政府による手厚い歓迎ぶりは西側諸国に強いメッセージを送ったと思われる。
しかし、インドとロシアの両政府はこの訪問で具体的に何を得たのか。BBCのロシア編集長とインド編集長が、それぞれ解説する。
数々の式典は豪華だった しかし具体的な発表は乏しく
スティーヴ・ローゼンバーグ・ロシア編集長
まず、ウラジーミル・プーチン氏が受けた歓待について。
ロシア側はそれを大いに喜んだ。
「騎馬隊、礼砲、そして大理石の玉座の間」。クレムリンを強力に支持するニュースサイト「コムソモリスカヤ・プラウダ」は、5日にこう書いた。「部屋が340室あるインドの宮殿で、ウラジーミル・プーチンはいかに迎えられたか」。
ウクライナ全面侵攻を受けて西側諸国はプーチン大統領を国際的な「のけ者」にしようとしてきたが、成功しなかったようだ。
しかし、取引や合意がどうなったかというと、その数は宮殿の部屋の数には及ばない。
それでも、ロシアとインドが互いの「特別で特権的な戦略的パートナーシップ」を誇示し、プーチン大統領が協力拡大のための努力を礼賛できるだけの、それくらいの成果はあった。
たとえば、ロシア・インド経済協力プログラム。
あるいは、重要鉱物とサプライチェーンに関する協定。
製薬もそうだ。ロシアのカルーガ州にロシアとインド共同の製薬工場が建設されることになった。
しかし、何よりも注目された懸案はどうなったのか。
まずは石油だ。
インドはこれまで、ロシア産石油を大量に購入してきた。制裁を受けるロシア経済は、これに大きく支えられてきた。
アメリカはこれに強い不満を抱いている。アメリカは、インドがクレムリンの戦費調達を助けていると非難している。そのため、トランプ政権はインド製品に重い関税を課し、ロシア産エネルギーの購入をやめるようインド政府に圧力をかけている。
プーチン氏は5日、ロシアはインドへの途切れない石油供給を保証する用意があると強調した。
しかし、詳細は発表されていない。次の展開を決めるのはインド次第という印象だ。
次に懸案の、ロシアの兵器と防衛システムはどうなったのか。
インドは最新鋭のロシア製戦闘機や防空システムを購入するのだろうか、といったさまざまな臆測が、プーチン氏の訪問前には飛び交っていた。
防衛関連の合意は発表されなかった。
これは、インドがいかに対ロ関係と対米関係の間で綱渡りを強いられているか、示すことなのかもしれない。
5日には華やかな儀式(そして宮殿)が目を引いたし、どのような合意が結ばれて発表されるのかが注目された。
しかし、私としては、ロシア側が「非公式の夕食」と呼ぶ両首脳の会談で、二人が何を話し合ったのか、ぜひとも知りたいところだ。
プーチン氏の外交補佐官、ユーリ・ウシャコフ氏によると、この「非公式の夕食」こそ今回の「訪問の重要なポイントの一つ」だった。
ウシャコフ補佐官はロシア政府機関紙「ロシースカヤ・ガゼータ」に、「こうした一対一の直接対話が行われる非公開の場でこそ、二国間関係と国際情勢について特に緊急性が高く、特に懸案で重要な問題が、話し合われるものだ」と述べた。
「政治はこうした会談で作られるものだ」
貿易が主な話題だった
ヴィカス・パンディー・インド編集長
視覚的な演出が目立つ訪問だった。
モディ首相は、要人を抱きしめて親愛の情を示すことで有名だが、今回は空港でプーチン氏を抱きしめて歓迎した。
インドの首相は、外国首脳が訪れるたびに毎回、空港まで赴いて出迎えるわけでは決してない。しかし、モディ氏はプーチン氏に対してそうした。
それは、ロシアとインドの長年の友好関係をモディ氏がいかに重視しているかを示すものだったし、プーチン氏との親しさを示すものでもあった。
しかし、華やかな儀式は大々的な合意には結びつかなかった。大規模な防衛契約や、インドがロシア産原油を引き続き割引価格で輸入できるようにする協定はなかった。
一連の儀式の後、両首脳は声明を読み上げた。
両首脳がいかに互いを尊重しているかが、まずは際立った。次に目立ったのは、目玉となる発表がないことだった。
しかし、二人の発言を通じて、今回の訪問の主要テーマは貿易だったことが、いっそう明らかになった。
ロシアは西側の制裁に苦しみ、インドはアメリカに税率50%の関税をかけられている。
両国はどちらも、自国経済を活性化させるための代替市場を必要としている。両国は互いを大市場と見なしている。そして、互いの経済パートナーシップのこれまでの成果はもう何十年も、期待以下だったという認識を共有しているようだ。
現在の両国の貿易額は687億2000万ドルで、2020年の81億ドルから増加した。しかし、その大部分はインドによるロシア産原油の割安購入によるものだ。
ロシアはこれを続けたいと考えている。ただし、ロシアには燃料を「途切れることなく供給」し続ける用意があると、プーチン氏が発言した言外には、ホワイトハウスの圧力に屈しないようにと、モディ氏にそっと念押しする意図があったはずだ。
トランプ氏はインドに、ロシア産石油の購入をやめるよう圧力をかけている。この先は、モディ氏が不可能をどう達成するのか、つまりロシアから石油を買い続けながらトランプ氏と貿易協定を結ぶことができるのかが、注目されることになる。
防衛と石油以外の分野では、両国は多くの合意を発表した。
造船、インド人船員の極地海域での運航訓練、新航路への投資、民間原子力、ビザなし渡航、重要鉱物――。さまざまな分野について、協定や覚書が結ばれた。
モディ首相は、両国間のビジネス関係強化をしきりに強調した。これは、新規市場を開拓しようとするインドの動きを反映している。
首相はまた、ロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスを含むユーラシア経済連合(EAEU)との自由貿易協定締結に向けて、進展があったと触れた。
この協定が成立すれば、ロシア、インド、その他の加盟国が互いの市場を開拓できるようになる。
両首脳はまた、両国が1000億ドルの二国間貿易目標を達成するための、5カ年の経済枠組みについても言及した。
石油の割引価格販売を総額から除外するなら、これはかなり野心的な目標額だ。だからこそ、実にさまざまな分野で二国間貿易を強化すると、両首脳はことさらに強調したのかもしれない。
そして最後に、大規模な防衛契約がなかったとはいえ、インド軍におけるロシアの役割は制限されない。ロシア政府は過去数十年と変わらず今後も、インドが防衛面で必要とする物資の供給で、最も重要な役割を担い続ける。
ただし、インド空軍が抱える重要な欠落を埋めるために必要な第5世代戦闘機Su-57について、インド政府は購入する意向をあまり公言していない。これは注目に値する。
もしかするとインド政府は、すでに発注済みの防衛機器の迅速な納品を求めたのかもしれない。現在発注しているS-400防空システムは、一部ユニットの納品が遅れている。
しかし、ロシアがそれを約束するのは難しいかもしれない。ロシアは今や防衛資源の大部分を、ウクライナに投入しているからだ。
だからといって、戦闘機やその他の主要防衛契約に関する交渉は、水面下で続いていないわけではない。
それでも、プーチン氏の今回のインド訪問のメインテーマは、貿易だったようだ。
