2025年12月6日(土)

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2025年12月6日

ネットフリックスはワーナー・ブラザーズ・ディスカバリーのストリーミングサービスを買収する。これには「ゲーム・オブ・スローンズ」(写真)などの番組で知られるHBOも含まれる

ナタリー・シャーマン・ビジネス記者、ダニエル・ケイ・ビジネス記者、クリスタル・ヘイズ・ロサンゼルス上級記者

米配信大手ネットフリックスは5日、米ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(WBD)の映画事業と配信事業を720億ドル(約11兆円)で買収することで合意したと発表した。

単純な合併のように聞こえるが、そこにはハリウッドのドラマに必要な要素がすべて備わっている。裕福で影響力のある求婚者、政治的な駆け引き、そして数多くのクリフハンガー(続きが気になる展開)だ。

だがこれは、現実に起きている巨人打倒の物語だ。

規制当局や競合他社がまだ舞台の袖で待機していることから、この物語は始まりに過ぎない可能性が高い。

この物語が展開する中で、注目すべき重要なポイントを解説する。

1.ネットフリックスがさらに強大に

ネットフリックスはここ数年、ハリウッドで他社をリードしている。世界最大の定額動画配信サービスであると同時に、カリフォルニアで最大の新作コンテンツ製作者としての地位を確立している。

しかし今回の、業界でも数年ぶりの大規模買収は、ネットフリックスが先頭集団のさらにトップに立つことを裏付けるものだ。同社はこの合併で、約1世紀分の作品を収めたカタログを手にし、すでに強力な製作能力をさらに強化することになる。

ネットフリックスはさらに、すでに3億人を超えている自社の加入者基盤に、ワーナーの配信事業「HBOストリーミング・ネットワーク(旧HBO MAX)」の加入者1億2800万人の一部を加えようとしている。この圧倒的な加入者数も見逃せない。

米調査会社フォレスターのマイク・プルー副社長は、「ネットフリックスはすでに最大のストリーミングサービスだが、そこにHBO MAXを加えれば、事実上、誰も太刀打ちできない存在になる」と述べた。

この取引により、「ルーニー・トゥーン」「ハリー・ポッター」「フレンズ」といった歴史のある人気シリーズや、「メディア王 〜華麗なる一族〜」「セックス・アンド・ザ・シティ」「ゲーム・オブ・スローンズ」といったHBOのヒット作品が、ネットフリックスの「ストレンジャー・シングス」や「KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ」など、より型破りな作品群と同じ屋根の下に集まることになる。

また、この買収には、アメリカ国外で展開するTNTスポーツも含まれている。

2. 月額料金が上がる……または下がる可能性

ネットフリックスは、今後1年から1年半以内にこの取引を完了したいと述べている。

しかし、幹部らは、ワーナー・ブラザースとその看板ブランドであるHBOを、既存のネットフリックスサービスにどのように統合するのかや、そもそも統合するのかについて、口が重い。

ネットフリックスの共同最高経営責任者であるグレッグ・ピーターズ氏は、HBOの名前は「非常に強力」であり、同社に「多くの選択肢」を与えると述べたが、それ以上の詳細は語らなかった。

ネットフリックスは映画や番組を異なるパッケージにまとめる可能性があるが、アナリストらは、HBOブランドが完全に消えればかなりの驚きだと述べている。

料金への影響も不透明だ。

ネットフリックスの優位性により、顧客により高い料金を課すことが可能になるかもしれない。しかし、視聴者が二つのストリーミングサービスに払っていたのが一つで済むようになったと感じるなら、料金は安くなるとも考えられる。

3. 配信が担い手になり、ハリウッドは脇に追いやられる

ワーナー・ブラザースは、ハリウッドを形作ったスタジオの一つであり、「カサブランカ」「風と共に去りぬ」「エクソシスト」といった名作を生み出してきた。

しかし、この買収は映画の黄金時代が色あせたことを示す一例だ。

「流れは明らかだ。未来は『オール・ストリーミング』だ」と、フォレスターのプルー氏は語った。

「この取引で公式に決まった。レガシーメディアは終わりだ」

ネットフリックスは、映画館での作品公開を続けると約束している。買収では、映画館で非常に好成績を収めているDCスーパーヒーローシリーズを手に入れるため、この判断には一定の合理性がある。

しかし、それがストリーミング企業にとって今後も優先事項であり続けると信じる人は多くない。

ネットフリックスのもう一人の共同最高経営責任者であるテッド・サランドス氏は先に、映画館での鑑賞は「時代遅れの概念」だと考えていると述べていた。そしてこの統合は、すでに人員削減や制作の減少、人工知能(AI)の脅威に直面している業界の神経を逆なでするものとなっている。

この取引に失望を示した業界人には、「タイタニック」のジェイムズ・キャメロン監督も含まれる。キャメロン氏は発表直前に、業界にとって「災厄」になるだろうと警告していた

4. 取引はまだ完了していない

この取引が完了するかは、確実とは言えない。

まず、WBDは、ニュース専門局CNNやディスカバリー、ユーロスポーツを含む、ネットフリックスに売却しない事業の分離を完了する必要がある。

一方で、WBD全体の買収を目指していた競合のパラマウント・スカイダンスが、依然としてWBD株主に対し、より良い選択肢を提示できると説得を試みる可能性もある。

だが最大の疑問は、この取引がアメリカとヨーロッパの競争当局から承認を得られるかどうかだ。これは大きな課題となる可能性がある。

アメリカでは、与野党双方の議員がすでにこの取引に反対の声を上げている。消費者の選択肢が減り、価格が上昇することへの懸念を指摘している。

サランドス共同CEOは、取引が破談になった場合にネットフリックスがワーナー・ブラザーズに58億ドル(約9000億円)を支払わなければならないことを踏まえ、「承認を得られると強く確信している」と述べた。

南カリフォルニア大学グールド法科大学院のジョナサン・バーネット教授は、規制当局が競争環境をどのように定義するかが一部で鍵になると語った。

もし規制当局が動画配信のみを対象とするなら、ネットフリックスの市場シェア拡大は重大な警告信号を発する可能性がある。しかし、ケーブルテレビや地上波テレビ、さらにはYouTubeまでを含めた広義の定義を採用するなら、「集中に関する懸念は次第に薄れる」と同氏は述べた。

米ヴァンダービルト大学ロースクールのレベッカ・ホー・アレンズワース教授は、このような合併は「異議申し立てが出される明白な事例」だと指摘。消費者にとってより良い条件を求める動きにつながると語った。

同教授は一方、ドナルド・トランプ政権が多様性や政治的偏向といった問題でネットフリックスに圧力をかける可能性を懸念していると述べた。過去に、他の事例で同様のことが起きているという。

5. トランプ大統領も不確定要素

議論の行方を左右するものとして、トランプ大統領の介入の有無がある。

トランプ政権は、合併に関する規制を緩和する方針を掲げている。

しかしトランプ氏は、WBDの買収に名乗りを上げているパラマウント・スカイダンスの背後にいる、ラリー・エリソン氏と、その息子デイヴィッド氏を高く評価してきた。エリソン氏はテクノロジー業界の富豪であり、共和党の献金者でもある。トランプ氏は、常にメディアやエンターテインメント業界に強い関心を示してきた。

米競争規制当局からはコメントがないが、トランプ政権の高官はCNBCに対し、ネットフリックスによるWBD買収案を「強い懐疑的な目」で見ていると語っている。

(英語記事 Five takeaways from the blockbuster Netflix Warner Brothers deal

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c2lveyzyr4do


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