ロシアのプーチン大統領（左）とアメリカのトランプ大統領が最後に会談したのは、8月に米アラスカの米軍基地でだった
アメリカのドナルド・トランプ政権が先週公表した「国家安全保障戦略」について、ロシア政府は7日、同国の見方と「ほぼ一致している」と前向きに評価した。この戦略では、ヨーロッパを「文明の消滅」に直面しているとし、ロシアについてはアメリカの脅威とは位置づけていない。
米政権は5日、33ページからなる国家安全保障戦略の文書を公表。外国からの影響への対抗、大規模な移民流入の終了、欧州連合（EU）による「検閲」への反対――なども優先項目に挙げている。
EU当局者やアナリストらは、この戦略に反発している。表現の自由に重点を置いている点を疑問視し、クレムリン（ロシア大統領府）の言葉遣いのようだと指摘している。
クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は、7日に公表されたロシア国営タス通信のインタビューで、「いま目にしている修正は（中略）私たちの見方とほぼ一致している」とコメントした。
ペスコフ氏は、「私たちは、これを前向きな一歩と考えている」と述べ、戦略文書をさらに分析してから、はっきりした結論を出すとした。
今回の戦略では、ロシアに対して穏やかな表現が使われている。これについてEU当局者らは、ウクライナでの戦争終結を目指してEUがロシアに対して取っている姿勢を弱める影響を懸念している。
トランプ政権の戦略文書は、EUについて、アメリカによる戦争終結への取り組みを妨げていると非難している。また、アメリカは「ロシアに対する戦略的安定を再確立」する必要があり、それが「欧州経済を安定させる」としている。
文書からは、アメリカが欧州大陸の政策に影響力を行使することを支持する様子で、「ヨーロッパの現在の方向性に対抗し、欧州諸国内で抵抗」を、米政策の優先事項にすべきだとの指摘もある。
文書はまた、「西洋のアイデンティティー」の回復を求めている。ヨーロッパについて「20年以内に認識不能になる」とし、欧州にとっては「文明の消滅」が深刻な現実問題だと主張。「文明の消滅という現実の、より深刻な見通し」を前に、欧州経済の問題は「大した問題ではなくなる」としている。
「特定のヨーロッパの国々が、信頼できる同盟国であり続けるだけの経済力と軍事力を維持できるかは、まったく不明だ」としている。
こうした否定的な見方とは対照的に、今回の文書は、「ヨーロッパの愛国的な政党」の影響力を高く評価。「アメリカはヨーロッパの政治的同盟国に、この精神の復興を促進することを奨励する」としている。
「アメリカにとって破滅的」との批判も
ウクライナでの戦争での和平合意を目指してEUがトランプ政権と協議を続けるなか、ヨーロッパの一部の当局者らは、今回の文書への「疑問」を口にしながらも、アメリカとの永続的な関係を強調している。
ドイツのヨハン・ヴァーデフール外相は5日、北大西洋条約機構（NATO）について触れ、「アメリカはこの同盟において、私たちの最も重要な同盟国であり続ける。この同盟はしかし、安全保障政策の課題に取り組むことに重点を置いている」と発言。
「表現の自由や私たちの自由な社会の秩序に関する問題は（NATOの戦略に）含まれるべきではないと私は考える。少なくともドイツに関してはそうだ」とした。
ポーランドのドナルド・トゥスク首相は、ソーシャルメディアで「アメリカの友人」に宛てて投稿し、「ヨーロッパはあなた方に最も近い同盟相手であって、あなた方にとっての問題ではない」と主張。双方には「共通の敵」がいるとした。
そして、「私たちに共通する安全保障にとって、これが唯一の合理的戦略だ。何かが変わったのでない限り」と書いた。
一方、スウェーデンのカール・ビルト元首相は、トランプ政権の今回の文書を「極右の右に位置するもの」だと批判した。
トランプ政権は、ドイツの政党「ドイツのための選択肢（AfD）」と関係を築いている。同党は同国の情報機関によって極右に分類されている。
今回の戦略は、「アメリカ第一」のメッセージを押し出すものとなっている。カリブ海と東太平洋で、麻薬密輸船とみなす船を攻撃する意向を表明。ヴェネズエラでの軍事行動の可能性も検討中だとしている。
また、日本、韓国、オーストラリア、台湾に防衛費の増額を求めている。
米議会の野党・民主党からは、この文書がアメリカの外交関係を崩しかねないとの警告が出ている。
下院で情報と軍事に関する委員会の委員を務めるジェイソン・クロウ下院議員（コロラド州）は、この戦略を「世界におけるアメリカの地位にとって破滅的なもの」だとした。
グレゴリー・ミークス下院議員（ニューヨーク州）も、「何十年も続いてきた、価値観に基づくアメリカのリーダーシップを捨て去る」ものだと述べた。
（英語記事 New US security strategy aligns with Russia's vision, Moscow says）
