2025年12月9日(火)

ビジネスと法律と経済成長と

2025年12月9日

 また、何をもって「ハラスメント」と考えるか、社会の中で十分な議論がされたとは言い難い。法律家としては、「労働者が適切な就業環境のもとで働く利益を侵害する言動」と定義づけはできる。ただ、この内容が社会で暮らす人々の理解を得られるかどうかは、不明である。

 仮に、この定義が理解されたとしても、「適切な就業環境」の内実は、「社会的相当性」と同様に明らかではない。これを狭く考える人もいれば、広く考える人もいるであろう。

「評価型社会」が広がる背景

 専ら「評価」だけが独り歩きをする状況の原因に、筆者の専門外の事柄ではあるが、SNSや「こたつ記事」と揶揄されるネット記事の普及があるだろう。

 SNSやネット記事では、閲覧数を稼ぐためにキャッチ―な見出しが求められる。これらにおいては、往々にして、出典元である文章や発言の内容が短く切り取られる。その際、キャッチ―な言葉として「評価」のみが選択されることが多い。

 多くの人は、これらを閲覧したことで、その内容を自分が直接見たり聞いたりした気持ちになる。出典元には、「対象」の内容が詳細に記載されているかもしれないが、それを確認することはしない。「評価」だけが拡散され、独り歩きする。

 法律家である筆者は、「自分が直接見たこと、聞いたこと以外は信じない」ということを大切にしている。これは、「対象」の確定こそが全てのスタートであるという、自分への戒めである。

 慶應義塾の創立者である福沢諭吉は、「自分の考えだけで他人を評価してはならない」という言葉を遺した。「評価型社会」を生きる私たちの前に、150年前の思想家の言葉がよみがえり、警鐘を鳴らしている。

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