2025年12月9日(火)

BBC News

2025年12月9日

ナタリー・シャーマン・ビジネス記者

米パラマウント・スカイダンスは8日、同業ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)に対する新たな買収案を発表した。米配信大手ネットフリックスによる、WBDの映画事業と配信事業の買収案を上回ることを狙っている。

米富豪エリソン一家の支援を受けるパラマウントは、従来型のテレビネットワークを含むワーナー・ブラザース全体の取得に向け、1株あたり30ドル(約4700円)での買い取りを提示。自社案は株主により多くの現金を前払いするほか、規制当局による承認の見込みも高く、ネットフリックスの提案よりも「優れた選択肢」だと説明した。

アメリカのドナルド・トランプ大統領は先に、ネットフリックスの買収案について、両社の規模を踏まえた競争上の懸念に触れ、「問題があるかもしれない」と述べている。

パラマウントは、ネットフリックスより企業規模が小さい。CBSニュース、児童向け作品の制作スタジオ「ニコロデオン」、映画「ミッション・インポッシブル」シリーズなどで知られている。

パラマウントは数カ月前からワーナーに買収提案を持ちかけており、その結果、ワーナーが正式な入札手続きを開始した経緯がある。

ワーナー・ブラザースは、「カサブランカ」「風と共に去りぬ」「エクソシスト」などの名作を生みだした老舗ハリウッド・スタジオ。現在も、「ルーニー・トゥーン」「ハリー・ポッター」「フレンズ」といった人気シリーズのほか、配信事業HBOでは「セックス・アンド・ザ・シティ」「ゲーム・オブ・スローンズ」などのヒット作を持つ。

一方、ネットフリックスは世界最大のストリーミング企業で、加入者は3億人を超えている。「イカゲーム」「ストレンジャー・シングス」や「KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ」といった型破りな作品で多くの視聴者を集めてきた。

入札ではネットフリックスが勝利

米ウォール・ストリートのアナリストらは長らく、パラマウントとワーナー・ブラザースの統合は合理的だと述べてきた。両社が合併すれば、ネットフリックスやディズニーと競争するための規模を確保できる。

パラマウントはまた、有力な買い手候補とも見られていた。トランプ大統領とエリソン一家、特にテクノロジー業界の富豪で共和党に巨額献金を重ねてきたラリー・エリソン氏との関係が、承認手続きを円滑にすると見込まれていた。

しかしWBDは5日、入札の勝者としてネットフリックスを指名。映画事業と配信事業「HBOストリーミング・ネットワーク(旧HBO MAX)」を、負債を含めて830億ドル(約13兆円)と評価した契約を発表した。

WBDは、CNNを含む他事業を独立会社として分離した後、売却手続きを進めるとしている。

パラマウントは、自社の提案はWBD全体を1084億ドルと評価しており、より良い取引だと説明している。また、米証券取引委員会(SEC)に提出された書類によると、トランプ氏の義理の息子ジャレッド・クシュナー氏が、この取引の一環としてパラマウントが協力する金融パートナーの一人に選ばれている。

ネットフリックスの幹部は8日、自社の計画に自信を示し、パラマウントの動きを「完全に予想されたもの」だと一蹴した。

ワーナー・ブラザースは提案を検討すると述べたが、現時点で推奨を変更していない。同社は10営業日以内に回答するとしている。

どちらの買収案も、アメリカと欧州の競争規制当局による精査を受ける見込みだ。

アナリストらによると、ネットフリックスの計画はストリーミング市場での独占に関する懸念を招く可能性が高い。一方、パラマウントの提案は、スポーツや子ども向けネットワークに対する複合企業(コングロマリット)の影響力を踏まえ、広告主や地域のテレビ配信業者への影響を検証することになると述べた。

CBSとCNNを同じ親会社の下に置くことになるパラマウントの計画も、ニュース事業への潜在的な影響や、エリソン一家とトランプ氏の関係を理由に、注視されている。

トランプ氏は先週末、ワーナーをめぐる買収案の承認手続きに関与するつもりだと述べたが、自分自身の見解は明確にしていない。

トランプ氏は7日には、ネットフリックスの統合に関する懸念に言及しつつ、同社幹部を称賛した。翌8日にはソーシャルメディア上で、パラマウントが放送した「60ミニッツ」の、マージョリー・テイラー・グリーン下院議員(共和党、ジョージア州)のインタビューを批判した。グリーン議員はトランプ氏の盟友だったが、最近では激しく対立している。

パラマウントの勝算は?

パラマウント・スカイダンスは今年8月、エリソン氏が所有するスカイダンス・メディアがパラマウント・グローバルと合併して成立。ワーナーに対する提案も、この計画を基盤としたものだ。

パラマウントのデイヴィッド・エリソン最高経営責任者(CEO)はCNBCのインタビューで、この取引についてトランプ氏と「すばらしい会話」を交わしたと述べたが、大統領の代弁はしたくないと付け加えた。

エリソンCEOはまた、自社の計画の方がメディア業界全体にとって有益だと強調。それに対してネットフリックスがワーナーを買収すれば、俳優をはじめとする業界関係者に対する権力を、一社に過剰に与えることになると主張した。

「これはハリウッドにとってひどい取引だ」と、エリソン氏は語った。

ワーナーが従来型ネットワークを独立会社として分離する計画についても、失敗に終わり、最終的に株主にとって誤りになるだろうと述べた。

「(ワーナーの)株価は、人々が主張しているよりもはるかに低くなると私は思う」

一方、8日に開催されたビジネス会議に出席したネットフリックスの幹部は、自社の買収計画が承認を得られると自信を示したうえで、計画に大規模な人員削減を含まないことを強調した。

英資産運用会社キルター・シェヴィオットのテクノロジー調査部門を率いるベン・バリンジャー氏は、「パラマウントは最終的に、この取引をネットフリックス以上に必要としている」と指摘。ワーナー・ブラザースの資産を、配信企業にとって素直に「持っていて良いもの」と評した。

8日にはワーナー・ブラザースの株価は4%以上、パラマウントの株価は9%、それぞれ上昇した。ネットフリックスの株価は3%超、落ち込んだ。

(英語記事 Paramount launches rival bid for Warner Bros Discovery

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c8xdrrry7k9o


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