2025年12月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年12月16日

 停戦、交渉、圧力、武器等といった、戦争終結のための方法論の議論はもちろん重要であるが、直近の状況は、和平交渉全体の構図が「ロシアvs米欧・ウクライナ」から「米露vs欧州・ウクライナ」に変容する可能性を示唆しており、これを如何に阻止するかという戦略的課題が、より深刻な問題として立ちはだかっているように思われる。

 リークされた米露の「28項目提案」から、ロシアの真の狙いはおよそ見当がつく。この「提案」には、ウクライナ戦争をロシアの条件に沿った形で終結させることに関する事項のみならず、米露間の経済・ビジネス協力と安全保障に関する協力が含まれている。

 それは、①欧州側の負担でウクライナ復興から米国が利益を得る仕組みの構築、②米露間の経済・ビジネス関係の強化(制裁解除とエネルギー、天然資源、北極圏開発等にかかる協力協定、等)、そして③戦略的安定性の問題(新戦略兵器削減条約〈新STSRT条約〉の延長、北大西洋条約機構〈NATO〉の行動規制、等)で構成されている。

 これは、①米欧関係の離間の促進、②「米国が得るビジネス上の利益」と「ロシアの条件によるウクライナ戦争の終結」のバーター、そして、③来年2月で失効する新START条約を延長することで米側の戦略システム開発を遅らせ、自身の戦略ミサイル運搬手段の開発などに必要な時間的余裕を得ること(ロシアは核弾頭は豊富だが運搬手段において米側に劣後)、という三つの目的を同時に達成しようとするもので、ロシアとして実によく仕組まれた提案になっている。

プーチンにとって都合の良いトランプの対外政策

 11月23日のジュネーヴでの米ウ協議の結果生まれた「19項目提案」は、当初の「28項目提案」が、元の姿が分からなくなるくらいまで修正されたものであるかも知れない。しかし、問題は、文言が如何に修正されたかということ以上に、上記のようなロシアの真の狙いをトランプ政権が受け容れているかどうかということだ。

 トランプの大統領就任以来、同大統領の対外政策の基本には、①欧州の安全保障に対するコミットの低下、②価値観よりは経済的利益と「力」に焦点を当てた「ディール」外交、③反グローバリズム、反リベラリズム、反ユーロピアニズム等の政治思想といった特徴が見られたが、これらは全て、プーチンにとって実に都合の良いものであった。

 トランプ外交の基本戦略に関わるこの特徴が変わらない限り、ウクライナ和平の問題は常にロシア側に有利な方向に向かう契機を有することになる。

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