2025年12月11日(木)

BBC News

2025年12月11日

ノーベル平和賞の授賞式で、選出されたヴェネズエラの反体制派指導者マリア・コリナ・マチャド氏に代わって壇上に立つ娘アナ・コリナ・ソサ氏

ノーベル平和賞の授賞式が10日、ノルウェーの首都オスロで開催された。同賞に選出されたヴェネズエラの反体制派指導者マリア・コリナ・マチャド氏(58)は授賞式に間に合わず、娘のアナ・コリナ・ソサ氏が代わりに賞を受け、演説を代読した。

複数報道によると、マチャド氏は11日未明にオスロに到着した。滞在先のホテルのバルコニーから姿を見せ、沿道に集まった人々に笑顔で応えた。

その前に開かれた授賞式では、マチャド氏の娘が、母親は自由なヴェネズエラで生きる決意で、「決して諦めることはない」と述べた。

マチャド氏らヴェネズエラの反体制派は昨年7月の大統領選でニコラス・マドゥロ大統領が3選されたという選管当局の発表は不当だと、選管発表と異なる詳細な集計結果をインターネットに発表し続けた。マチャド氏は昨年8月以来、ヴェネズエラ国内で身を隠していた。

授賞式の直前、マチャド氏は自分は「無事」で、オスロの首都に向かっているところだが、オスロ市庁舎での授賞式には間に合わないとする音声メッセージを公開した。

マチャド氏に代わって賞を受けた娘のソサ氏は、母親が書いた演説を読み上げた。

ノーベル委員会は、マチャド氏の「独裁政権から民主主義への公正かつ平和的な移行を実現するための闘い」を評価し、平和賞を授与した。

ソサ氏はまず演説で、母親に2年間会えなかったことが自分に与えた影響について語った。

「2年ぶりに母を抱きしめ、キスし、抱擁する瞬間が訪れるのを待つ間、(世界中の)母親に会えない娘や息子たちのことを思ってきた」と、ソサ氏は述べた。

次にマチャド氏の演説を代読。ヴェネズエラの人々は「再び抱き合い、再び恋に落ち、街は笑い声と音楽で満ちる」だろうと聴衆に訴えた。

そして、「世界が当たり前に享受しているささやかな、あらゆる喜びは、私たちのものとなるだろう」と続けた。

「なぜなら結局のところ、私たちの自由への旅路は常に私たちの内に存在するからだ。私たちは私たち自身へと戻り、故郷へ戻っている」

ソサ氏の演説に、オスロ市庁舎に集まった聴衆は総立ちし、長い拍手で応えた。聴衆にはノルウェーの王室メンバーの姿もあった。

マチャド氏の出席をめぐり臆測

ヴェネズエラからの出国を禁止されているマチャド氏をめぐっては、授賞式への出席をめぐって多くの臆測が飛び交っていた。音声記録の中で、マチャド氏は「私はオスロに到着する。いま向かっている」と述べていた。

しかし、ノルウェー・ノーベル研究所のクリスチャン・ベルク・ハルプヴィーケン所長は、マチャド氏は「今夜(10日夜)から明朝までの間」に到着する見込みで、授賞式には間に合わないとした。

ノーベル研究所は10日の早い段階では、マチャド氏の所在が分からないと発表し、支持者の間に不安が広がった。

オスロでは、ソサ氏ら3人の子どもたちや、マチャド氏の母親と姉妹が集まり、マチャド氏との再会を待ちわびていた。

マチャド氏は今年1月9日、マドゥロ大統領の就任に抗議する集会を最後に、公の場に姿を見せていなかった。

昨年7月のヴェネズエラ大統領選をめぐっては、不正行為があったと、同国の反体制派や国際社会が主張。ヴェネズエラ各地で抗議行動が起きた。

その後の弾圧では、多くの反体制派を含む約2000人が逮捕された。

大統領選を前に、分断していた野党勢力をまとめ上げたマチャド氏は、逮捕される恐れがあるため身を隠した。

マチャド氏はインタビューに応じたり、ソーシャルメディアへの動画投稿を続けたりし、支持者たちに諦めないよう呼びかけた。

マチャド氏のノーベル平和賞受賞は、支持者たちを奮い立たせた。そして、同氏のオスロへの渡航について臆測を呼んだ。

ノルウェーへの渡航計画は完全に非公開で、どのように潜伏先を離れ、どのような手段で欧州に到達したのかは分からない。

ヴェネズエラを発つ前、マチャド氏はノルウェー公共放送NRKに「私は必ず戻って来ると、すべてのヴェネズエラ国民に伝えたい」と語った。

ヴェネズエラ市民の反応

ヴェネズエラの首都カラカスでは、マチャド氏は簡単に帰国できないのではないかと懸念する声も上がった。

マリアさん(66)はBBCに対し、マチャド氏がいなければ支持者は「無防備な状態に置かれてしまう」と不安を口にした。

「彼女にとって問題は帰国することだ」と、マリアさんは述べた。そして、自分の孫たちが国外にいるのは「まさに、私たちが抱えている問題のためだ」と付け加えた。

ノーベル委員会はマチャド氏に平和賞を授与した際、同氏の「市民としての勇気」をたたえた。同委員会は、「自分の命に対する深刻な脅威があるにもかかわらず」国内にとどまるという選択をし、「何百万人もを鼓舞した」と評価した。

ヴェネズエラ国民のカルロスさん(49)は、マチャド氏がノルウェーから帰国することを望んでいると語った。

「彼女はここに、国内にいる方がいいと思う。国を離れた人は誰も何も成し遂げていないので。彼女にとってヴェネズエラ国内にいるのが最善だ」と、カルロスさんは亡命した野党指導者たちを批判しつつ述べた。

マドゥロ政権とアメリカの緊張高まる中

マチャド氏は、マドゥロ政権とアメリカとの緊張が高まる中でノーベル平和賞を受賞した。

アメリカは9月以降、ヴェネズエラ沖の国際水域に軍艦を派遣し、「麻薬密輸船」だとする船舶を攻撃している。物議を醸しているこの攻撃で、これまでに合わせて数十人が殺害されている。

ドナルド・トランプ米大統領は、マドゥロ氏への圧力を強め、退陣を迫る最後通告をしたとも報じられている。

10月にノーベル平和賞の受賞が発表されると、マチャド氏はトランプ氏と電話で話をした。トランプ氏はかねてから、自分が平和賞にふさわしいと繰り返し述べていた。

マチャド氏はこの時の電話で、「アメリカ国内だけでなく、世界中で平和のため、自由のため、民主主義のために行動する(トランプ氏に)対し、ヴェネズエラ国民がどれほど感謝しているか」を強調したのだと、BBCに明かした。

この電話について記者から問われたトランプ氏は、「私は彼女(マチャド氏)をずっと支援してきた」、マチャド氏は「とてもいい人」だと答えた。

マチャド氏は、カリブ海におけるアメリカの船舶攻撃を支持しているとみられる。この攻撃の合法性を、国際法の専門家は疑問視している。

マチャド氏は、「麻薬取引や金の密輸、武器の密輸、人身売買、石油の闇市から流入する資金源を断てば、政権は崩壊する」とBBCに語った。

(英語記事 Nobel Peace Prize winner's daughter accepts award on her behalf

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c78vzjr3pn7o


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