2025年12月15日(月)

BBC News

2025年12月15日

2019年に香港を揺るがした民主化運動でも、黎智英氏は積極的に活動していた(2019年8月)

香港の裁判所は15日、香港メディア界の大物で民主化活動家の実業家、黎智英氏(ジミー・ライ、78)に対し、香港国家安全維持法(国安法)に基づき、外国勢力と結託した罪で有罪判決を言い渡した。

2020年12月以降、収監されている黎氏は、無罪を主張していた。

国安法で有罪となった場合、終身刑になる可能性がある。量刑は来年初めにも言い渡される見通し。

裁判所は、黎氏が社主だった民主派タブロイド紙・蘋果日報(アップルデイリー)を利用し、香港と中国に制裁を科すよう外国政府に働きかける広範な取り組みを行っていたと認定した。アップルデイリーは2021年6月に廃刊に追い込まれた

香港政府トップの李家超(ジョン・リー)行政長官は判決を歓迎し、黎氏の行為が「国家の利益と香港市民の福祉を損なった」と指摘した。一方、人権団体は、この判決を「残酷な司法の茶番劇」だと非難した。

中国政府は国安法を、香港の安定に不可欠だと擁護しているが、人権活動家らは、同法が異論を封じるために使われてきたと主張している。

国安法指定法官の杜麗冰判事は、黎氏が中国に「憎しみを抱いていたことに疑いはない」と指摘。黎氏が「香港の人々を助けるという口実で、アメリカに対し、中国政府を打倒するよう繰り返し要請していた」と述べた。

黎氏は昨年11月に証言した際、すべて罪状を否定し、香港に関する外交政策に影響を与えるために外国の人脈を利用したことは「一度もない」と語った。

マイク・ペンス米副大統領(当時)との会談について尋ねられると、黎氏は何も頼んでいないと答え、「(ペンス氏に)質問されたので、香港で何があったのかを伝えただけだ」と語った。

また、当時のマイク・ポンペオ米国務長官との会談についても質問されると、黎氏は「何かをするよう求めたのではなく、発言してほしいと求めた。香港への支持を表明するようにとお願いした」のだと述べた。

民主化デモの中心人物

イギリス国籍を持つ黎氏は、中国政府の最も厳しく批判し続けた一人で、2019年に香港を揺るがした民主化デモの中心人物だった。中国は、時に警察との暴力的な衝突に発展した数カ月にわたる抗議活動に対し、国安法を導入して応じた

香港立法会(議会)での審議を経ずに制定された同法は、当局に対し、同市の法秩序や政府の安定を脅かすとみなした人物を起訴し、収監する広範な権限を与えた。

黎氏は、抗議活動と、民主派運動の旗手となったアップルデイリーへの関与から、国安法違反の罪に問われた。

15日の判決では、黎氏がアップルデイリーに扇動的な資料を掲載した疑惑についても、英植民地時代の別の法律に基づき有罪と認定された。

黎氏は判決が読み上げられる間、落ち着いた様子を見せ、法廷から連れ出される際に家族に手を振って別れを告げた。

法廷には、黎氏の妻・李韻琴氏と息子の黎順恩氏、そして黎氏の長年の友人で、1997年にライ氏にキリスト教カトリックの洗礼を授けた陳日君(ジョセフ・ゼン)枢機卿も同席していた。

ロバート・パン弁護士は判決後、「黎氏の気力は大丈夫だ」と述べた。また、「判決文が非常に長いため、まずは時間をかけて精査する必要がある。現時点で付け加えることはない」とし、控訴については言及しなかった。

人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)のエレイン・ピアソン・アジア局長は、「中国政府は、CCP(中国共産党)を批判する勇気を持つ者を沈黙させる目的で、ジミー・ライ氏を虐待した」と述べた。

「ジミー・ライ氏の裁判という茶番を前に、各国政府は当局に圧力をかけ、直ちに訴追を取り下げて彼を釈放するよう求めるべきだ」。

英米を含む欧米諸国は数年にわたり黎氏の釈放を求めてきたが、中国政府と香港政府はこれを拒否している。

ドナルド・トランプ米大統領は以前、黎氏を救うために「できることはすべてやる」と約束していた。キア・スターマー英首相も、黎氏の釈放を確実にすることが「優先事項だ」と述べていた。

司法独立への試練

黎氏の裁判は、香港の司法独立性をめぐる新たな試練と広く見なされるようになった。香港の裁判所は、2019年に中国が同市への統制を強化して以来、中国政府の方針に追随していると批判されてきた。

香港当局は法の支配が維持されていると主張しているが、国安法によって収監された数百人の抗議者や活動家の存在や、今年5月時点でほぼ100%に達する有罪率を指摘・批判する声もある。

国安法関連の事件では保釈が認められないことが多い。黎氏も例外ではなく、人権団体や黎氏の子どもたちが同氏の健康状態に懸念を示していたなか、収監は続いた。黎氏は独房に拘束されていると言われる。

黎氏の息子の黎崇恩(セバスチャン・ライ)氏は今年初め、BBCのインタビューで、黎氏の「体は壊れ始めている」、「年齢や健康状態を考えれば、父は刑務所で死ぬだろう」と述べていた。

香港政府はまた、外国人弁護士が事前許可なしに国安法の事件に関わることを禁じたことについても、批判されている。

政府は、国家安全保障上のリスクだと説明したが、外国人弁護士は数十年にわたり、香港の裁判所で活動してきた。この結果、黎氏は、弁護を依頼しようとしていた、イギリスに拠点を置く弁護士を起用できなかった

黎氏は今、国安法の下で実刑判決を受けた香港の民主派運動家数十人に加わることになった。

香港国家安全警察のトップは判決後に記者団に対し、黎氏が「政治的目的のためにニュースを捏造(ねつぞう)した」と述べた。

中国では、国営・環球時報が香港選挙委員の発言を引用し、この事件が「明確なメッセージ」を送っていると報じた。「国家を分裂させようとする、あるいは香港の繁栄と安定を損なういかなる試みも、法律の下で厳しく処罰される」。

財界の大物から民主化活動家へ

中国で生まれた黎氏は、12歳のときに香港に逃れた。服飾産業で最初に財を築いた後、メディア業界に参入。アップルデイリーの親会社・壱伝媒(ネクスト・デジタル)を設立した。

民主化活動家としての歩みは、1989年に中国が北京の天安門広場で民主化要求の抗議活動を残虐に弾圧した後に始まった。

ライ氏は天安門事件を批判するコラムを書き始め、その後、アップルデイリーやネクストを含む、一連の人気民主派メディアを創刊した。

現在でも、多くの香港市民は黎氏のことを、民主主義を擁護する重要な声と見なしている。15日には、約80人が法廷に入るために列を作った。

その中の一人、ラム氏は取材に応じたものの、フルネームの公表を望まなかった。手にリンゴを持ったラム氏は、14日から並び始めたと語った。前日にも変わらず、すでに数十人が先に並んでいたという。寒い夜だったが、黎氏の幸運を祈りたかったからだと、ラム氏は話した。

法廷にいた元アップルデイリー記者はBBCに、「私たちは皆、失望し、無力感を抱いている。しかし、この問題全体には必ず終わりがあり、その時は来るときに来る」と語った。

「ジミー氏はいつも、自分は香港に恩義があると言っていた(中略)しかし私は、香港とほとんどの香港市民が、彼が自らの健康と自由を犠牲にして、コミュニティーの核心的価値、誠意、そして高潔さを守ってくれたことに感謝していると思う」

黎氏は証言の中で、自分は社員に香港独立を主張することを「決して許さなかった」と述べ、そのような指摘は「陰謀」で「あまりにも狂っているので、考えるに値しない」と表現した。

「アップルデイリーの核心的価値は実のところ、香港の人々の核心的価値だ」と、黎氏は語り、そこには「法の支配、自由、民主主義の追求、言論の自由、信教の自由、集会の自由」が含まれると付け加えていた。

(英語記事 Pro-democracy Hong Kong tycoon Jimmy Lai found guilty of colluding with foreign forces

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cn5lgw2xgedo


新着記事

»もっと見る