2026年1月3日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2026年1月3日

 忙しい人が美術館に足を運ぶにはどうしたらいいか。そのヒントを示してくれる本である。熱心なファンを除いて、毎日忙しい仕事に向き合っていると、その合間を縫って美術館に行こうという心の余裕を持てる人は自分も含めてあまり多くないだろう。

(jenoche/gettyimages)

 だが、美術館の展示やイベントに興味がないわけではない。海外旅行で訪れた地に著名な美術館があればやはり訪れてみようと思う。そう考えると潜在的な来訪意欲は多くの人が持っているのではないかと想像する。 

「タイパ」を意識し遠のく美術館

 本書『忙しい人のための美術館の歩き方』は美術館がいまどんな状況にあるのかというところから説き起こす。時間がないから行けないのはある意味、仕方ないとしても、時間があっても行けない状況があるという。来館者について著者はこう記す。

 学芸員として私が問題視しているのが、来館者のメイン層がはっきりと二極化していることです。端的に言って、シニア世代と20代前半の若者だけが美術館に足を運んでいるのです。

 さらにこうも記す。

 働き始める前と働き終えた後の人だけがせっせと美術館に足を運んでいて、三十代から(私の推測では二十代後半から)五十代の現役世代はまったく美術館に行っていない、という事実です。

 とはいえ、現役世代が全く美術に関心がないわけではなく、近年「美術=ビジネスマンに必須の教養」というブームが起きていることからみても注目されているようだと著者は見る。

 それなのに美術館に足を運ばないのが現役世代という矛盾はなぜかを考えると、「コスパ・タイパの呪縛」という部分にゆきあたる。スキルアップを効率良く実現し、教養を無駄なく習得していかなければ損をするという意識が大きくなっているからだという。著者はこう指摘する。 

 とにかく自己研鑽をしなければ、それもなるべくタイパを意識しながら。この思考回路になってしまうと、時間ができたから美術館にでも行こうかな、という気持ちになりづらいのは当然といえば当然です。なぜなら美術館はタイパと相容れない場所だからです。 ~中略~ はっきり言ってタイパの真逆にあるのが美術館です。

 著者のストレートな指摘には思い当たる部分も多い。とりあえず効率良く知りたいという考え方はわかるし、美術館の魅力はタイパの対極にあることも多くの人が薄々感じている。しかし、そこになかなか踏み込めないのが現役世代の心情なのだろう。


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