電話と電気には、もっと大きな違いがある。投資の意思決定だ。ともに装置産業だが、操業コストに大きな違いがある。電話は設備を一旦作れば、コストは確定する。収入も利用者数と料金から計算できる。同業他社の設備のコストも大きく変わることはない筈だ。同じようなコスト構造で競争するから、料金も同じようなレベルになる筈だ。コストも収入も予測できる。難しい投資の意思決定ではない。
電気のコストは、発電源を何にするかで大きく異なる。水力発電、原子力発電では設備投資額が大きくなるが、操業の費用は殆どかからない。火力発電では、設備投資額は相対的に低いが、燃料を何にするかで発電コストは大きく異なる。今だと、燃料代だけで、1kW時当たり石炭で3~4円、石油で15~16円、天然ガスで10~11円程度必要だろう。
地域電力会社のように多種の設備を保有していれば、燃料のリスクを分散することが可能だ。しかし、新規に事業を開始する新電力が、需要量が不透明ななかで競争力のある電源を持つことができるだろうか。将来も価格競争力のある燃料は石炭のように思えるが、石炭は二酸化炭素の排出量が多く、地球温暖化の観点から将来利用に制限がかかるリスクがある。石油、天然ガスを燃料にすると競争力の観点で問題がありそうだ。発電開始時点で競争力がなければ、顧客を獲得できず、倒産だ。
電気が電話と違うのは、コストの予想ができないことだ。これは、企業の意思決定においては決定的な違いになり、発電設備への投資を極めて難しくする。このために、自由化を進めた英国、米国の州は、発電設備の減少に伴う供給量の減少に頭を悩ますことになった。
英国も米国も電力自由化については試行錯誤
90年に自由化を開始した英国では老朽化した発電設備の建て替えが行われないために、昨年政府が容量市場を導入することを決めた(『電力自由化で「新たな総括原価主義が必要に? 温暖化対策進める英国のジレンマ』)。発電設備を建設すれば、発電量に関係なく一定の金額が支払われる制度だ。余剰設備、供給余力を確保するための制度だ。
なぜ発電設備の建て替え、新設が行われなくなったのだろうか。一つは自由化により将来の電力価格が不透明になったためだ。設備を作っても電気が売れるか、その価格はいくらかわからなければ、投資は出来ない。自社のコストが他社と比べて競争力があるかも将来の化石燃料の価格次第だから分からない。
もう一つ問題がある。再生可能エネルギーの導入政策によっては、風力、太陽光などからの発電は、市場の外で優先的購入が行われるかもしれない。再エネが優先されれば、自社設備の稼働率は低下し、収入が減ることになる。売値も、コストも、稼働率も不明では、あまりにリスクが多すぎて投資することは難しい。