日本にとっての期待と課題
このことは日本にとっても無関係ではない。日本は24年にEUとの間で安全保障・防衛パートナーシップに合意しているが、EUとインドとの防衛協力によって、例えばインドの潜水艦の静粛性、探知能力が向上し、その中で日印防衛協力を進めることで南シナ海からインド洋にかけての中国の潜水艦の行動把握・可視化能力を向上させることができれば、日印双方にとって重要な成果となる。
ただし、本件記事が指摘しているように、以上のような成果が得られるかは「この合意を具体化することに成功」するかにかかっている。それには主として以下のような障害を克服する必要がある。
第一は、防衛装備品協力に関する両者の思惑の相違である。EUとの協力においてインドは共同生産を通じた技術移転を望んでいる。ところが、EUがインドに求めているのは、インドという武器市場へのアクセスだ。
もう一つは、生産拠点およびサプライチェーンの多様化だ。例えば、155mm砲弾の生産はすでにドイツ企業との間で進められており、ジェット戦闘機関連の部品もラファール戦闘機関連部品をフランス企業との間で、また防空ミサイルシステムの部品の分業もEU企業との間で行われている。
要するに、EUがインドに期待するのは市場、部品調達あるいは生産拠点であって、技術移転には基本的に慎重である。ただし、例えばドイツ企業との間では、ステルス性と航続距離を向上させる燃料電池式大気非依存推進システム(AIP)搭載型潜水艦の建造を含む計画が進み、ドイツからの一定の技術移転が含まれる可能性がある。
第二は、共同生産につき米国の承認が必要とされる場合があることだ。EUの保有する防衛装備品でも、設計や部品に米国の技術が含まれる場合には、米国の承認がなければEUからの購入や共同生産を行うことはできない。
例えば、航空機のエンジン、潜水艦のソナー等はインドが得たいと考える技術だが、これらは米国の承認が必要となる。インドにとってEUとの協力強化の背景の一つは対米依存からの部分的シフトにあるが、そこで望むものを手に入れようとすれば、結局のところ米国の了承が必要となるというジレンマに直面する場合がある。
第三は、ロシア製兵器との混在の問題だ。近年、徐々に比率を下げているとはいえ、インドの武器体系の相当部分は依然としてロシア製だ。今後具体的な形で武器売買あるいは共同生産が俎上に上った時、米国はもとより、EUにとってもロシア製兵器と混在することの問題が議論されることになる。
