2024年11月21日(木)

研究と本とわたし

2014年7月17日

――中学・高校時代は、どのような読書をされていたのでしょうか?

佐々木氏:目指す道が決まってくると、今度は逆にそれ以外のものにも興味が出てきましてね。よくありますよね、仕事が忙しくなるとほかのことがやりたくなる(笑)。

 特に受験勉強で数学をやらされると、数学以外のことがやりたくてしかたない。そんなときに、たまたま好きな女性アイドルがテレビドラマの「伊豆の踊子」で主演していたことがきっかけで、原作を実際に読んでみたわけです。

 そうしたら、“心温まらない名作”というか、非常に自分勝手な、独特の感覚が現れたおもしろい小説だと思いました。それで、たちまち大人の文学の世界に取りこまれたのです。小遣いをほとんどを川端康成の文庫本につぎ込み、そのうち他の作家の、いわゆる耽美的な作品も好きになりました。もちろん谷崎(潤一郎)とか三島(由紀夫)もいいけれども、やはり今でも一番は川端康成で、中でも『雪国』(角川文庫ほか)が好きですね。

 同じ頃によく読んだのが、『ナヴァロンの要塞』(アリステア・マクリーン著)です。イギリスの伝統的な海洋冒険小説の流れで、洗練された英国文化が感じられる作品です。読んでおもしろいし、この作家の書いたものは、次々と映画化されて話題になっており、映画の方も全部観ています。私は高校のときには、完全な映画少年になっていて、映画館に入り浸っていました。そういう映画の魅力も思い出させてくれる本ですね。

――その後、文系に移られたきっかけは何だったのでしょう?

佐々木氏:それは結局、私があまりにも化学に向いていなかったということですね。

 実際に大学の研究室に入って、化学の本格的な研究に携わるようになって初めて気づいたのですが、私はとても不器用だし、本来文科系的な人間だと自覚したのです。

 それで高価なガラス製の実験器具を次々と割ってしまう。化学者は壊したら自分で修理するのも身につけているべき大事な素養の一つなんですが、そんなことも全然知りませんでしたから、「割れました」と言って指導教官の先生のところへ持って行き、怒られたものです(笑)。


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