皮肉にも幸いしたのは、入管庁の決定だった
試験に合格していても、就職先が見つからなればビザを申請できない。タン君の留学ビザは4月いっぱいで失効する。もはやベトナムへ帰国するしかない状況だ。
「仕方ありません。いったんベトナムに帰ります」
3月末に会ったタン君は帰国を覚悟した様子でそう話していた。
彼は“水増し書類”を使ってビザを取得し、留学を出稼ぎに利用しようとした。その揚げ句、日本で都合よく利用され尽くした。最初から偽装留学などせず労働者として来日していれば、新聞販売所でひどい待遇を受けることもなかった。とはいえ、借金まで背負いベトナムへ戻るのだ。今さら責めるのは酷だろう。むしろ問われるべきは、偽装留学の実態を放置し続けている日本側の責任だ。
それから数日後の4月上旬――。
<就職しました!>
そんなメッセージがタン君から私のスマホに届いた。すぐに連絡すると、ある外食チェーンでの採用が決まったのだという。
皮肉にも幸いしたのは、入管庁の決定だった。特定技能「外食業」での新規受け入れ停止が決まって以降、業界では人材の争奪戦が起きた。ビザ申請が締め切られる「4月13日」前に試験に合格している外国人を採用し、駆け込みで申請しようとする動きが一気に加速したのだ。そのおかげで、通常であれば就職が難しいはずのタン君の採用に名乗りを上げる企業が現れた。
「本当にうれしいです。日本で5年は働いてお金を貯めたい」
タン君は声を弾ませ、こう付け加えた。
「ベトナムにいる弟も日本に留学させたい。だけど、もちろん新聞配達だけはやらせません」
