2026年6月13日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2026年6月3日

日本に突きつけられる“新たな両岸問題”

 冷戦により国際社会における活動空間が狭まる中、先行き不透明な台湾(蔣介石政権)とは対照的に、ニクソン政権のお墨付きを手にした北京(共産党政権)は自民党政権主導の日本の政財官界から全面支援を引き出し、「世界の工場」を経て現在の経済大国への道を突き進む幸運を得たことになる。この動きに拍車を掛けたのがウォール街によって強力に推進されたグローバル化にほかならないだろう。

 20世紀末期から30年前後が過ぎた現在までを振り返ってみるに、アメリカを中心とする多くの多国籍企業が効率第一主義に過度に傾いてしまったことで、結果的にサプライチェーンを中国市場に集中させてしまうという失態を招いてしまった。それがレアアースに象徴的に現れているように経済活動を円滑に進める上での“人質”を北京に押えられてしまうような現状を招くことにつながったと考える。

 経済貿易関係の関与を深めることによって共産党を善導し、中国は民主化に向かって“普通の大国”に変化する――ニクソン政権以来、ホワイトハウスを頂点とするアメリカのエスタブリッシュは、この種の幻想に疑いを持たないまま時を過ごしてしまった。効率性と短期的な利益を最優先するウォール街主導のグローバル化は、皮肉にも自国内の労働者層(製造業)を弱体化させ 、同時に強固なナショナリズム的プレーヤー(中国共産党)を巨大化させてしまった。

 もちろん中国市場に無限の可能性を期待するからこそ、19世紀半ばのアヘン戦争から20世紀前半にかけて列強間で激しく繰り広げられた権益競争を再演するかのように、現在でも中国市場を舞台に熾烈な国際ゲームが展開されているわけだ。

 ここで、かつては存在してはいなかった共産党という強力・狡猾でタフなプレーヤーが、このゲームをリードしている点に注目しておきたい。おそらくこの辺りに、長期的には米中G2関係の、短期的に捉えれば今次米中首脳会談の、それぞれが抱える“不都合な真実”が潜んでいるように思える。

 アメリカの“善意”は共産党政権の強固な統治のカベに阻まれる一方、逆にアメリカ国内の経済社会システム、ことにその基層部分に当たる労働者層に大きな変化をもたらしてしまったのではなかろうか。

 話をジェンスン・フアンに戻すなら、アメリカの経済社会が基盤とする製造業部門を斬り捨て「知識経済化」への道を積極的に選択し、情報革命を掲げIT化からAI超先端技術に突き進む過程を巨大な商機と捉えたことが、彼の現在をもたらした。まさに「世界のAI戦争における唯一の武器商人」の面目躍如といったところである。

 香港発行の『亞洲週刊』(2026/5/4~5/10)は「全球華商1000排行榜」を特集し、世界の華人企業トップ1000社を特集している。

 それによれば、もちろんダントツ・トップはNVIDIA(中国では「英偉達」、台湾では「耀達」と表記)で株式時価総額は4兆4700億ドル。TSMCはNVIDIAに次いで総合第2位である。NVIDIAの株式時価総額は3位から11位までの総計に匹敵する。TSMCとNVIDIAを合わせると、5兆9243億2700万ドル。さらに20位までの総計を超えるのである。

 たとえ株式時価総額の数字とはいえ、NVIDIAとTSMCの時価総額の総計が中国の主要な国有銀行やエネルギー企業の合計に匹敵するという事実は、製造業や金融といった「20世紀型の実体インフラ」がAIという「21世紀型の知のインフラ」に経済の主要な地位を譲らざるをえない“前兆”だろう。

 時価総額を基準にするならNVIDIAとTSMCの両社の合計額は中国のトップ18社を超えることになる。これこそが“隠れた両岸問題”であり、ここに注目しない限り、「G2」における台湾問題の本質は見えてこないだろう。

 はたせるかな5月27日の台北発ロイター電は、年内着工で2030年にはNVIDIA台湾本社の稼働を目指すとのジェンスン・フアンの方針を伝えている。本社建設式典で彼は「4年前、5年前、我が社は台湾で年間100億、150億ドルを支出していたが、現在では年1000億ドルになっている。今後は1500億ドルに達する見込み」「台湾はAI革命の震源地であり、チップもパッケージングもここから生まれる。システムはここで作られ、AIスーパーコンピューターもここで誕生した。台湾で我々が提携しているパートナーの数は信じられないほど多い」と語っているが、台湾本社の稼働によってTSMCとの連携はより緊密となることは十分に予想できる。


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