2026年6月13日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2026年6月3日

 米半導体大手のアドバンス・マイクロ・デバイス(AMD)CEOのリサ・スー(蘇姿豊)が5月18日、何立峰副首相と北京で会談し、「中国はAMDなどの企業が中国の発展にもたらす機会を捉え、互恵的な協力を深めることを歓迎する」との発言を引き出した。なお、リサ・スー氏は台湾生まれの福建系。ジェンスン・フアンとは近い親戚関係にあるようだ。

 こうみると、先に指摘しておいたAI計算力・アルゴリズムという「知」の力、つまり「知政学」が台湾海峡を挟んで一気に現実化している。どうやら従来とは別次元の、異質な、未知の「台湾問題」「両岸関係」「台湾有事」が日本に突きつけられているのではないか。

「哲学」なき首脳会談

 ここで思い出されるのが、72年2月のニクソン大統領訪中である。

 アメリカ側はニクソン大統領にキッシンジャー安全保障担当大統領補佐官。対する中国側は毛沢東主席に周恩来首相。双方は共にソ連を敵としていた。

 ニクソン大統領に向かい毛沢東は「私は哲学の話がしたい」と単刀直入に切り出す。続くキッシンジャー・葉剣英軍事委員会副主席・喬冠華外交副部長らの米中実務者会談で「我々が日本人に対していつも経験していますが、彼らは秘密を守ることができませんね」とキッシンジャーが語るや、笑いが起こる。トランプ大統領と習主席とによる今次首脳会談でも、もれ伝わるところでは日本は刺身のツマ状態だったようだ。

 それから54年後、今回の首脳会談では米中共に“外交的手練れ”は見当たらず、首脳同士が互いを褒めちぎりメンツを保つ外交辞令での幕開けだった。ソ連という共通の敵は消え去り、伝えられる限り「哲学」は話題にすらならなかったようだ。極論するなら、トランプ大統領に象徴される「カネ儲けのためのビジネス・ミッション(取引)」に矮小化されたままである。

 これも時代ということだろうが、やはり問題は米中関係が「哲学」を失ったトランザクショナリズム(取引至上主義)に移行している、ということだろう。

 経済的な実利面で深く結びつきながらも技術や安全保障で激しく対立する状態――「相互依存的な冷戦」とでもいっておこうか――においては、長期的な「哲学」は無用であり、短期的なディールしか成立せず、世界を安定させる長期的な「世界観や哲学」が生まれにくいという厳然たる真実が、じつは「G2」という華々しい看板の裏側に張り付いているのではないか。

日本が取るべき道

 今回の「G2」から日本が学ぶべきは、やはり“世界の中の日中関係”といった広い視点に立った上で、台湾問題も含めた日中関係全般の再定義・再構築であると痛感する。かつて日本の政財官は「世界の工場」となった中国を全面支援することで日中友好の実を挙げられると思い込んできたが、今やその関係は崩れ去った。とはいうものの、ハード面の強化に精を出したところで、日本が置かれた客観条件を改めて精査するまでもなく、費用対効果の面からして目標達成は容易ではない。

 ここで思い当たるのが、国際社会の荒波の中で生き残りを図った台湾官民の生存戦略だろう。広大な領土や人口を持たない国が、巨大な米中「G2」の狭間で埋没しないためには、単なる外交の立ち回り(バランス外交)だけでは不十分だ。「この技術、この素材、この知産がなければ世界が回らない」という「戦略的不可欠性(Strategic Indispensability)」をどれだけ確保できるか。

 「哲学なき大国」のパワーゲームの狭間に翻弄されないためにも、日本独自の「生存の哲学」と具体的な技術覇権の再定義が、今まさに求められていることを強調しておきたい。

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