民防衛訓練=防災訓練?
一連の報道の中で筆者が特に注目した記事は、4月25日付朝鮮日報社説(日本語版)「防災訓練、現状に即して見直しを」(同紙同日付韓国語版では「民防衛から実体験訓練に変え、しっかりとやってみよう(筆者仮訳)」)であった。ほぼ同内容の社説が5月9日付中央日報にも掲載されている。
「民防衛」の定義は「敵の侵攻や、全国または一部の地方の安寧秩序を危うくする災害(民防衛事態)から、住民の生命と財産を保護するために、政府の指導の下、住民が実行すべき防空、応急的な防災、救助、復旧、および軍事作戦上必要な労力支援等のすべての自衛的活動(民防衛基本法第2条第1項)」であり、年に3回の防空退避訓練等を通じて、全国民が非常時に備えるためのものだ。
前述の朝鮮日報社説は「年に数回行われる民防衛訓練をまじめに行っている国民は少ない」、「制度が形骸化している」と現行の民防衛に批判的だ。筆者自身、韓国滞在時に何度かこうした訓練に遭遇したことがある。警報のサイレンが午後2時に鳴ると、通行中の車輌は停止指示に従うが、周辺の歩行者の中には地下への退避指示に従わない人が多かった。社説の指摘通り、民防衛訓練は形骸化が進み、行政のセレモニーと化していた。
同紙社説は、北の攻撃を想定した防空訓練における国民の安全意識の無さを憂いながらも、それが日常的な安全意識の欠如につながっていると批判した上で、国家主導の大規模訓練よりも、地方自治体による国民一人一人の意識改革を促す内容に変えるべきだと主張している。こうした指摘に呼応するかのように、民防衛制度を所管する消防防災庁は6月21日に初めて全国規模の火災避難訓練を実施した。しかし、興味深いことに、2010年11月23日に起きた延坪島砲撃事件の際は、「北の挑発に対する備えが不十分だ」との声が上がり、政府は同年12月15日に初の全国民を対象とした緊急防空訓練を実施している。つまり、韓国ではその時々で国民が「安全」を脅かすと考える脅威対象は変化してきているものの、「訓練の形骸化」という問題は相変わらず変わっていないようだ。
韓国国民の「安全」に対する意識変化
弱まる北への脅威認識
日本と同様、韓国でも安全保障を「安保」と略すことが一般的だが、これまでは北からの軍事侵略が「安保」上最大の脅威とされてきた。実際に、朝鮮戦争停戦後も大統領府襲撃事件等北の軍事挑発は続いており、韓国軍は北朝鮮による度重なる軍事挑発を警戒していたのである。しかし、1993年、民主化した韓国は軍事政権から文民政権となり、経済も発展して先進国の仲間入りを果たした。軍事面でも、韓国は北朝鮮よりも遥かに高性能の兵器を次々と導入する一方で、北からの直接的な軍事的脅威は減少した。更に、2000年には当時の金大中大統領と金正日総書記による南北首脳会談が実現するなど、南北間の緊張は大幅に緩和されている。