パーソナルトレーニングにおける事故の背景
消費者庁の報告をまとめると、パーソナルトレーニングにおける事故は、単にトレーニング中に偶然けがをしたという話ではないようだ。多くの場合、身体情報の共有不足、不適切な運動プログラム、実施中の観察・修正・中止の不足が重なって生じている。
例えば、利用者の身体情報が十分に把握されていない、あるいは把握されていても十分に反映されていないという問題がある。体重を落としたい、短期間で結果を出したいという目的だけが前面に出ると、過去のけが、既往歴、当日の体調といった情報は後回しになりやすい。
また、実施中のコミュニケーション上の問題もあるようだ。報告書では、利用者が「限界」「不安」「やりたくない」といった趣旨のことを伝えていたにもかかわらず、トレーナーの判断や勧めによって運動が続けられ、けがに至った事例も確認されている。運動負荷が高いだけでなく、危険なサインを受け取ったときに、運動を修正したり、中止したりする仕組みが十分に働かなかったことが問題となっている。
利用者にとっては、「ここでやめたら甘えていると思われるのではないか」「高い料金を払っているのだから頑張らなければ」などと考えがちだということが容易に推定できる。これは、すでに支払った費用や時間を無駄にしたくないという「サンクコスト効果」や、損を避けようとする「損失回避」など、行動経済学や認知心理学などの知見からも理解できる。
場の空気や関係性、費用などの複合的な要因が考えられるが、パーソナルトレーニングという一対一の場面そのものに、無理を継続させやすい心理的構造が含まれていることが指摘できる。
もちろん、制度的な課題もある。消費者庁の報告などでも強調されているが、スポーツ選手やリハビリ目的ではなく、一般人を対象としたフィットネス分野には、医師(スポーツドクター)や理学療法士のような特定の国家資格があるわけではない。民間資格はあるものの、資格取得までの学習時間にも大きな差があり、1日の講習で取得できるものもあれば、四年制大学の体育学部等での学習を前提とするものもある。
「トレーナー」と名乗っている人の知識や技能の水準を外から判断しにくいなど、事業者や資格認定団体を超えて、安全に必要な知識や事故情報を共有する仕組みが十分に整っていないという構造的な問題が根底にあるのも確かだろう。
