浮上するキーウ侵略の可能性
「ロシア軍指導部はキーウ、チェルニヒウ方面を含むウクライナ北部での作戦展開に向けたシナリオの策定を命じられている。それは事実だ。わが軍は現在、それらの攻撃への防衛や、さらに対抗する作戦の立案を進めている」
ウクライナからの報道によれば、ロシア軍がキーウなどに昼夜をまたぐ大規模攻撃を実施した8月28日、ウクライナ大統領府副長官のパブロ・パリサ氏は現地の記者団にそう明かしたという。
ロシア軍が検討する作戦の詳細は不明だが、仮にそれが地上軍の侵攻であれば22年2月の全面侵攻開始時と同じ構図となる。キーウ州、チェルニヒウ州はロシアの友好国である隣国ベラルーシとロシア国境に接する。
ロシアのプーチン大統領は8月29日、モスクワ郊外ノボオガリョボの公邸でベラルーシのルカシェンコ大統領と会談した。ロシア政府は「目下の戦争について意見は交わされなかった」と発表したが、そのような訳はない。いずれにせよ、ウクライナ側を揺さぶる強い意図がうかがえる。
ウクライナ軍のドローン攻撃でロシア国内の燃料精製施設やネット通販倉庫が相次ぎ破壊され、多くのロシア人の生活に影響が出始める中、ロシア軍はウクライナへの攻撃を拡大している。8月28日~29日にかけてロシア軍は、日中を含む約28時間にわたり攻撃ドローンやイスカンデルM型弾道ミサイルによる連続攻撃を首都キーウやキーウ州に対し実施した。
これまで、ロシア軍の都市部への攻撃は夜間に実施されるのが常で、昼間の攻撃は民間人の生活を著しく阻害し、さらに精神的な打撃を与えたことは疑いがない。さらに重要施設が集まる首都キーウを標的にした攻撃は、ウクライナ軍の防衛能力も疲弊させる。
さらに米ブルームバーグ通信は8月末、ロシア側がウクライナとの和平協議が完全に行き詰まったのとの認識から、プーチン大統領が最終手段として戦術核兵器を使用する可能性があるとのロシア政府関係者の話を伝えた。戦術核はミサイルよりも弾頭の威力が小さく、都市全体を壊滅するような攻撃とはならないが、1945年以来となる戦争での核の使用が行われれば、放射性物質が広範囲に飛び散るなどウクライナや周辺国に甚大な影響を与えるのは必至だ。
CIA長官の訪露
そのような危機の高まりが鮮明になる中、8月末にはCIAのラトクリフ長官がロシアを極秘裏に訪問したとの報道が米国内で流れ、トランプ大統領もその事実を認めた。トランプ氏は、ラトクリフ長官の訪露が「定例的なもの」と発言したが、トランプ政権下でCIA長官がロシアを訪れた事実が明らかになったのは今回が初めてのことで、トランプ氏の発言を鵜呑みにすることはできない。
欧米メディアは一斉に、ラトクリフ氏の電撃訪問の目的はロシアにNATO諸国への攻撃をしかける兆候があり、その行為を思いとどまらせるというものだったと報じた。米ロ両国政府はそのような事実は認めていないが、客観的な状況を見れば、その可能性は十分にあったといえるだろう。
