南鳥島レアアース泥――科学的成功と商業的成功は別である
2026年、JAMSTECは南鳥島周辺海域において、水深約6000メートル級の深海からレアアース泥を連続的に揚泥する技術実証を進め、大きな成果を上げている。これは海洋工学、深海採鉱技術という観点から見れば、極めて重要な成果である。
筆者は、この科学技術上の価値を否定するものではない。むしろ日本が世界に先駆けて深海資源開発技術を蓄積することには、大きな意味があると考える。しかし問題は、その次である。技術的に採れることと、経済的に採れることは同じではない。
「1600万トン」は、そのまま可採埋蔵量ではない
南鳥島レアアース泥については、「1600万トン」という巨大な数字がしばしば報道される。しかし、この数字の扱いには十分な注意が必要である。これは一定海域について推計されたレアアース酸化物換算の資源量であり、そのすべてが現在の技術と価格で経済的に採掘可能であることを意味しない。
鉱山開発の世界では、Resource(資源量)とReserve(可採埋蔵量)は違う。さらに言えば、地質学的に存在する資源量と、経済的に採掘できる量は全く違う。鉱山開発に長年関わってきた筆者が最も慎重になるのは、この部分である。資源量の大きさだけで国家プロジェクトの経済性を説明することはできない。
国家が要求すべき数字は「1キログラムいくらで作れるか」である
南鳥島プロジェクトを本格的な商業事業へ移行させるのであれば、国家が確認すべき数字は極めて単純である。まず1トンの乾燥泥について、「レアアース含有量 × 回収率 × 元素別販売価格 =最終製品の販売価値」を計算する。
そこから、「採泥費 +深海からの揚泥費 +船舶費 +燃料費 +南鳥島での処理費 +脱水費 +本土への輸送費 +選鉱費 +浸出費 +分離精製費 +製錬費 +廃棄物処理費 +設備償却費 +金利 +環境対策費」をすべて差し引く必要がある。
そして最終的に問うべき数字は、「ジスプロシウム、テルビウム、ネオジム、プラセオジムなどを1キログラム生産する総コストはいくらなのか」である。
その数字を中国、豪州、米国などの既存あるいは新規レアアース事業と比較する。これが示されない限り、資源量をどれだけ積み上げても商業的経済性の証明にはならない。最大のリスクは「成功した瞬間に価格が下がる」ことであるレアメタル・レアアース事業には、新幹線やダムにはない特殊な問題がある。それが国際商品価格である。
巨大なレアアース鉱山が生産を開始すれば、供給量が増える。供給が増えれば価格が下落する可能性がある。つまり、大規模生産に成功すること自体が、自らの商品価格を押し下げる可能性がある。これは鉱山開発における根本的なリスクである。
したがって南鳥島の経済性評価では、現在のレアアース価格だけを使ってはならない。少なくとも、「現在価格 20%下落、 40%下落、 60%下落」という複数の価格シナリオが必要である。
さらに、中国が増産した場合、中国企業が輸出価格を引き下げた場合、豪州、米国、アフリカなどで新規鉱山が立ち上がった場合、リサイクル技術が進歩した場合、磁石そのものの省レアアース化が進んだ場合、まで含めて感度分析を行う必要がある。
現在価格で黒字になることと、20年間競争力を維持できることは別問題なのである。
