資源を制する者が、AIを制する
前回、私はAI革命の本質は、ソフトウェアや半導体だけではなく、レアメタル、銅、電力、データセンターを巻き込んだ「第2の資源革命」であると書いた。
AIは軽やかなデジタル技術に見える。しかし、その実体はきわめて重い。GPUをつくるには多種類の重要金属が必要であり、AIデータセンターを動かすには原子力発電所一基分に迫るような電力が必要になる。そして、その電気を運ぶには銅が不可欠である。
ここで避けて通れない問題がある。中国である。AI時代の競争は、半導体企業同士の競争にとどまらない。電力を確保できる国、銅を調達できる国、レアメタルを精製できる国、磁石や材料を加工できる国が優位に立つ。資源を制する者が、AIを制する。この構図が、いよいよ鮮明になってきた。
中国の強さは「鉱山」よりも「工程支配」にある
中国の資源戦略を考える時、多くの人は鉱山の保有量に目を向ける。もちろん、それも重要である。しかし本当に恐るべきは、資源を掘る力だけではない。精製し、分離し、加工し、部材に変える力である。
レアアースを例に取れば、中国は採掘だけでなく、分離・精製、磁石材料、部品加工に至るまで、サプライチェーンの中核を握っている。ガリウム、ゲルマニウム、タングステン、アンチモンなど、AIや半導体、防衛、通信に関わる重要鉱物でも中国の存在感は大きい。
資源の世界では、鉱石を持っているだけでは勝てない。鉱石は、そのままでは使えない。選鉱し、精錬し、不純物を取り除き、用途に応じた材料へ仕上げる必要がある。ここに技術、設備、環境規制への対応、労働力、資本、時間が必要になる。
中国は長い時間をかけて、この工程を押さえてきた。私はこれを「工程支配」と呼んでいる。資源戦略において最も強いのは、鉱山を持つ者ではない。工程を握る者である。
日本は本当に弱いのか
では、日本はこの競争で負けるだけなのか。私はそうは思わない。日本は資源大国ではない。原料の多くを海外に依存している。これは厳然たる事実である。
しかし日本には、世界に誇る材料技術、精密加工技術、製錬技術、リサイクル技術がある。非鉄金属、電子材料、磁石、化学、機械、電機の分野には、いまだに底力がある。日本の強みは、地下資源そのものではなく、「資源を価値に変える技術」にある。
私は商社マンとして30年、経営者として20年、世界中の鉱山、製錬所、工場を歩いてきた。そこで痛感したのは、資源ビジネスとは単なる売買ではないということだ。
資源は価格だけでは動かない。時間で動く。技術で動く。人脈で動く。そして国家戦略で動く。日本が生き残る道は、単に海外鉱山を買うことだけではない。むしろ、製錬、精製、リサイクル、代替材料、都市鉱山、部材技術を組み合わせ、資源を循環させる国家システムをつくることにある。
AI時代において、日本は「資源を持たない国」から「資源を使いこなす国」へ進化しなければならない。都市鉱山は夢物語ではないが、万能薬でもない日本ではよく「都市鉱山」という言葉が使われる。
使用済み電子機器、廃基板、廃バッテリー、モーター、磁石、半導体製造装置などには、多くの金属が含まれている。これらを回収し、再資源化することは極めて重要である。日本はこの分野で高い技術を持っている。
だが、都市鉱山だけで全てが解決するわけではない。AI革命による資源需要の伸びは大きい。データセンター、送電網、変圧器、冷却設備、半導体、磁石、電源装置が同時に拡大すれば、リサイクルだけでは到底追いつかない局面が出てくる。
したがって、日本に必要なのは三つの組み合わせである。第1に、海外資源の安定確保。第2に、国内製錬・精製技術の維持強化。第3に、都市鉱山とリサイクルの高度化。
この三つを一体で考えなければならない。資源安全保障とは、鉱山だけの話ではない。港湾、物流、製錬、電力、環境規制、人材、金融、外交を含む総合戦略なのである。
AI革命は、文明の土台を問い直している
AIの進化は、私たちに便利な道具を与えるだけではない。それは、文明の土台を問い直している。人類はこれまで、何度も資源によって時代を変えてきた。石炭は蒸気機関を動かし、産業革命を支えた。石油は自動車、航空機、化学工業を生み、20世紀の世界秩序を形づくった。
そして今、AI文明はレアメタル、銅、電力の上に築かれようとしている。
ここで重要なのは、資源の価値が時代によって変わるということだ。かつて見向きもされなかった金属が、ある技術の登場によって突然、戦略物資になる。レアアースがそうだった。リチウムがそうだった。ガリウムやゲルマニウムもそうである。
AIの拡大によって、次にどの金属が脚光を浴びるのか。それを読むには、単なる相場観では足りない。技術、地政学、電力、環境、産業政策を同時に見る必要がある。これこそ、資源の面白さであり、恐ろしさでもある。
山師の目で見るAI時代
私は自分のことを、半ば冗談で「山師」と呼んできた。山師とは、山を見て、地層を読み、鉱脈の気配を感じる人間である。単なる投機家ではない。見えない価値を、現場の匂いから感じ取る人間である。
AI時代にも、この山師の目が必要だと思っている。画面の中の華やかなAIだけを見ていては、未来は読めない。その裏側にある鉱山を見なければならない。製錬所を見なければならない。変圧器を見なければならない。送電線を見なければならない。港を見なければならない。廃基板の山を見なければならない。
そこに、AI文明の本当の姿がある。未来を決めるのは、アルゴリズムだけではない。電力であり、銅であり、レアメタルであり、それを確保する国家の意思である。
第2の資源革命の目撃者として
私はこれまで、世界中の資源現場を歩いてきた。ロシア、中央アジア、中国、アフリカ、南米。鉱山には、その国の歴史と欲望と未来が刻まれている。製錬所には、技術者たちの汗と国家の戦略が宿っている。
AIの時代になっても、その本質は変わらない。むしろ、デジタル化が進めば進むほど、物理的な資源の重要性は増していく。人々はAIを見て未来を語る。しかし私は、AIの向こう側に鉱山の影を見る。銅精鉱の匂いを感じる。製錬炉の熱を思い出す。港に積まれた鉱石の山を思い浮かべる。
未来は、クラウドの中だけにあるのではない。未来は、地中に眠る金属から始まる。AIはレアメタルを爆食している。この一文は、単なる比喩ではない。21世紀の文明を読み解くための鍵である。
私たちは今、静かに、しかし確実に進行する「第2の資源革命」の目撃者なのである。
