それでも南鳥島研究には国家予算を投入する価値がある
ここで議論を誤ってはならない。経済性がまだ証明されていないからといって、南鳥島プロジェクトそのものを中止すべきだという結論にはならない。筆者はむしろ、探査は進めるべきである。 採泥技術の研究も進めるべきである。 深海揚泥技術も確立すべきである。 選鉱・分離・精製技術も研究すべきである。 環境影響評価も徹底して行うべきである、と考える。
なぜなら南鳥島には、純粋な鉱山採算とは別に大きな経済安全保障上の保険価値があるからである。中国からレアアース供給が途絶した場合、「多少高価でも、日本自身がレアアースを生産できる」という技術と資源を持っていることには大きな国家的価値がある。
これは石油の国家備蓄と似ている。石油備蓄そのものが毎年利益を生む必要はない。危機が起きたときに使えることに価値がある。南鳥島も同じ発想で考える余地がある。
南鳥島は三つの国家プロジェクトに分けて評価すべきである
南鳥島レアアース泥開発を一つの「国家プロジェクト」として一括評価するから議論が混乱する。筆者は三段階に分けるべきだと考える。
第一段階 科学技術プロジェクト――高く評価できる
深海約6000メートルから資源を採取する技術、海洋工学、選鉱、分離精製など、日本独自の技術体系を構築する。これは国家予算を投入する十分な価値がある。
第二段階 経済安全保障プロジェクト――条件付きで高く評価できる
中国依存を減らし、非常時に国内供給できる能力を確保する。純粋な民間採算より多少コストが高くても、国家安全保障上の保険料として合理性がある。ただし、その場合には「採算が取れる」と説明するのではなく、年間いくらまでを経済安全保障コストとして国民が負担するのかを明確にすべきである。
第三段階 商業鉱山プロジェクト――現段階では判断できない
ここだけは科学技術や安全保障とは切り離して評価しなければならない。本格商業化には、生産量、回収率、操業率、設備投資額、操業費、輸送費、分離精製費、元素別販売価格、将来価格、環境コスト、設備寿命、資本コストを明示した事業計画が必要である。
そのうえでNPV、IRR、投資回収期間を計算しなければならない。
新幹線、黒部ダムと南鳥島の決定的な違い
過去の国家プロジェクトを一言で整理すれば、次のようになる。東海道新幹線は、在来線の「東海道本線」の輸送力のひっ迫を解消し、日本の経済成長のけん引役となった。黒部ダムは、電力が足りないから造った。青函トンネルは、国土と物流を安定的につなぐために造った。東京オリンピックは、必要だった都市インフラ整備を加速させた。万国博覧会は、経済活動と都市開発を誘発した。宇宙ロケットは、国家として技術的自立を持つために開発した。
では、南鳥島は何なのか。現段階では、「巨大な利益を生む海底鉱山」ではなく、「日本が将来、深海資源を利用できる技術と選択肢を持つための国家プロジェクト」と位置づけるのが最も合理的である。
「世界一の資源量」という夢と「経済性」を混同してはならない
南鳥島レアアース泥には夢がある。日本が資源小国から資源国へ転換する可能性を秘めているという期待も理解できる。しかし国家予算を投入する以上、夢と経済計算は分けなければならない。最も避けるべきなのは、「1600万トン」 「世界有数」 「数百年分」 「日本が資源大国になる」という巨大な数字や言葉から、そのまま商業的成功を推論することである。
鉱山開発で最後に問われるのは、海底に何億トンあるかではない。1トン掘り、6000メートル持ち上げ、運び、分離し、精製して、売ったときにいくら残るのか。それが第一の問いである。
そして国家プロジェクトであるなら、もう一つの問いが必要になる。たとえ赤字であっても、経済安全保障のための「国家保険料」として、年間いくらまで負担する価値があるのか。
この二つの数字を国民に示して初めて、南鳥島レアアース泥開発は、新幹線、黒部ダム、青函トンネル、宇宙開発に並ぶ国家プロジェクトとして評価できるのである。
科学的成功、国家安全保障上の成功、商業的成功。この三つは同じではない。南鳥島の可能性を正しく育てるためにこそ、この三つを冷静に分けて議論する必要がある。
