2026年9月16日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2026年9月16日

 一方、アジア諸国はロシアのウクライナへの武力行使を、将来において中国との軍事的均衡が崩れる場合の自国に対する危機の発生への警告と捉えている。さらに、中国の過剰生産や輸出攻勢は欧州・アジア諸国にとってそれぞれの産業基盤への脅威として認識され始めた。安全保障だけでなく、経済・技術面でも米欧・アジアの利害が接近してきている。

 さらに、米国への「過度な依存からの脱却」が進むとしても、米国との結びつきを完全に断ち切ることは困難である。米国市場は同盟国にとって重要な輸出先であり、クラウド、先端半導体、AIなどの分野では米国企業が圧倒的な競争力を持つ。軍事面でも、F-35、ミサイル、防空・情報・監視・偵察、宇宙システム、指揮統制など、多くの分野で米国との相互運用性が不可欠である。欧州が防衛力を増強する上で、その調達や技術協力の面で米国との関係はむしろ深まる方向に進むと思われる。

同盟を「新しい時代に合わせて作り替える」

 論文は、同盟諸国が米国に代わる世界秩序を選択する場合には、深刻な問題に直面する、と指摘する。①無秩序な多極化は軍拡競争を招き、②大国間で勢力圏を合意する秩序は大国間の対立を固定化する。③大国協調も現状では現実性が低い。そして、④中国が部分的な覇権を確立すれば、各国は中国への経済・技術・安全保障上の依存を強めることになる。したがって最も望ましい第5の選択肢は、米国と同盟国が市場、技術、投資、軍事力を結集し、単なる「米国への依存」から「能力を共同で創出する関係」へ移行することである。

 これを筆者らは「allied scale(注:「同盟による総合力」とでも翻訳できる)」と呼ぶ。目標は、米国が一方的に同盟諸国を防衛する従来型の構図ではなく、同盟国自身も防衛生産、サプライチェーン、技術、軍事能力を提供し、相互依存によって個々の国の能力を上回る力を形成することである。

 そのためには、包括的な新条約を一気に作ろうとするのではなく、医薬品供給網、弾薬共同生産、重要鉱物など、中国が支配する「チョークポイント」を対象に、小規模で具体的な共同事業から始めるべきだと提案する。成功を積み重ね、より多くの国を巻き込むことで、同盟の信頼と能力を段階的に拡大できる。

 結局、本論文の核心は、同盟を「過去の状態に復元する」のではなく、「新しい時代に合わせて作り替える」という主張である。トランプ政権の政策は同盟に大きな不確実性をもたらしたが、それは同時に、同盟国がより多くの能力を持ち、米国との関係をより対等な相互依存の関係へ昇華する契機にもなり得る。

 そうした新たな環境の下で2028年以降の米国外交に求められるのは、単に中国やロシアに対抗する防衛同盟ではなく、加盟諸国が参加することに自らの利益を見いだせる同盟関係の中で、開かれ、繁栄し、技術的に活力ある秩序を構築することである。悲観論に陥って同盟の再建を諦めるのではなく、危機を改革の機会として利用することが、同盟を存続させる最も現実的な道なのである、と筆者らは結論付ける。


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