2026年10月7日(水)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2026年10月7日

報告書は何を言ったのか

 今回の報告書で最も大きな変化は、日医会長が委員会に投げかけたテーマにある。それは、「健康食品を適切にセルフケアに活かすための提言」を求めるものであった。「健康食品をどう規制するか」ではなく、「どう活かすか」に大きく舵を切ったことが、このテーマに現れている。

 その答えとして、報告書は次のように述べている。

1. 健康食品は、食事を中心とした生活習慣を「補う手段」として位置づけるべきものである

2. 健康食品で体調不良を改善できないか試みることは、セルフケアの一環として大事である

3. 医師や薬剤師の助言を受けながらであれば、健康被害を防ぎ、医療費の抑制にも役立つ

 特に注目すべきは、14年には「積極的に勧めているわけではない」「医療費を増やす」としていた健康食品が、26年には専門職関与を条件に「セルフケアを支える有用な手段」「医療費の適正化に資する」側へと置き換えられている点である。

 とはいえ、日医が健康食品を手放しで推奨し始めたわけではない。報告書の大半は、むしろ注意喚起に割かれている。

 つまり日医が認めたのは、「医師や薬剤師が利用状況を知り、助言できる状態で使われる健康食品」に限られる。警戒の対象が「健康食品」そのものから、「医師や薬剤師に相談せずに使うこと」へと移ったと言い換えてもよい。その意味で、今回の変化は、「使わせない」から「安全に使わせる」への転換と言える。

なぜ変わったのか

 日医の方針変更の理由を、ここ十数年の動きから考えてみると、少なくとも4つの要因が見えてくる。

 第1に、健康食品が国民の暮らしに溶け込んだことだ。機能性表示食品は、制度開始から10年ですっかり定着し、コンビニやドラッグストアで当たり前に売られている。

 こうなると、医師が「やめなさい」と言っても、患者は使うのをやめない。医師に聞かれても、使っていることを隠すだけだ。日医が否定を続けるほど、被害の発見が遅れる。それなら「使うことを容認して、安全に使ってもらう」方が、患者を守ることができる。

 第2に、紅麹サプリ事件をきっかけに安全対策が大きく進んだことだ。サプリメントの形をした機能性表示食品には、医薬品に準じた品質管理基準(GMP)の採用や、健康被害の報告が義務づけられた。26年にはサプリメントを法律で定義し、規制が行われる。

 日医が14年に「安易な規制緩和」と批判した状況は、ここで規制が大幅に強化された。安全面の条件がある程度整ったことで、「条件付きで認める」と言いやすくなった。

 第3に、医療政策の流れである。政府は医療費を抑えるため、軽い不調は自分で手当てする「セルフケア」を強く推し進めている。25年には、市販薬と似た処方薬(OTC類似薬)を保険から外す案が議論され、日医は「断固反対」を表明した。結局、保険外しは見送られたが、約1100品目で患者に追加の負担を求めることになった。

 この流れに正面から逆らい続けるのは難しい。そこで日医は、「セルフケアは認める。ただし医師が関与する」という立場を取ったのではないか。「専門職の助言のもとでのセルフケアは、医療費の抑制に役立つ」という報告書の一文は、まさにこの考え方に沿っている。

 第4に、伝え方が変わったことだ。「危ないからやめなさい」という一方的な警告では、人の行動は変わらない。その結果、患者は健康食品を購入・使用するが、その事実を医師には伝えないという分断があった。報告書は、「使うな」から「選択肢を比較して本人が決める」方向に転換し、良い点と悪い点を並べて本人が納得して選ぶための「意思決定支援」の手法を紹介している。


新着記事

»もっと見る