というのも、中国では一般的に、一度買った商品はたとえ不良品であっても返品することが難しい。海外旅行中ということも重なってか、商品購入時には欠陥がないかを入念にチェックする傾向がある。こうした事情を考慮し、「一度封を切ってしまうと、新品としての価値がなくなってしまうため、購入を前提に事前確認を認めている」(今井氏)と柔軟な対応を見せている。
日本人にとっては戸惑いを覚えるかもしれないが、そうした商習慣の違いを理解しよう。「あまりにも目に余るときは注意しますが、素直に聞いてくれますよ」(百貨店販売員)というから、行き過ぎたときは注意しつつ、イライラせずに気持ちよく買ってもらえるよう心掛けることが必要だ。
三、新製品には弱い
店内は白を基調とした色で統一され、天井から足元まで約3㌧ものクリスタルがちりばめられている。訪れたツアー客は異空間に来たのかと思わず溜め息をつく。ここは、クリスタルのジュエリー、アクセサリーやオブジェなどを販売するスワロフスキー銀座店。中央通りに面した同店は、旗艦店として08年春にオープンし、世界中の店舗のなかでここでしか買えない商品を5~6種類程度取り扱っている。
「商品選びで迷われている方に限定品や新商品を勧めると、喜んで購入してくれる」(販売員)と商品ラインナップと顧客のニーズが見事に合致している。そんな評判が広がってか、全体の客の1割が中国人となったことから、急遽中国語が話せるスタッフ2人を雇用し、1人を常時配置したほどだ。
また、ラッピングするリボンが銀座店のみ違うことから「日本の銀座で買った」という証となり、それも喜ばれている。
中国人観光客の2人に1人が購入する化粧品(JNTO調べ)でも同様の動きがみられる。中国人に圧倒的な人気を誇る資生堂の三越銀座店マネージャー川村恭子氏は「日本だけで売られているブランドを提案すると、それを買っていく」とセレブたちのツボを押さえている。化粧品には15~17%関税がかかるため割安感が高く、「お土産として1人で1万円以上のセットを10個以上買うことも珍しくない」という。
さらに、中国人の消費行動として「面子や見栄を大事にする」(旅行業界関係者)という側面があり、「新製品」「限定品」は、中国に持ち帰ってからも周囲に自慢する格好の材料となる。それゆえ「買い物した夜、ホテルで商品を仲間内で自慢しあい、自分が買ったものより新しいモデルがあると指摘されると、わざわざ翌日交換しにくることもある」(三越銀座店企画担当マネジャー仁田正俊氏)という。このように日本でしか手に入らないものには、躊躇なくお金を使うことも中国人セレブの特徴だ。