四、 象徴的なものが好き
「以前は店の奥に置いてあったのですが、好評のため店頭に出すようになりました」
前述のスワロフスキーの販売員はこうも語る。同ブランドのシンボルである白鳥をモチーフにしたネックレスは新作ではなく既存商品のため、お客様から問い合わせがある場合に見せていた。しかし中国人客から「もっとスワロフスキーで買ったと分かる商品はないか」との問い合わせが増えたため、ディスプレイを変更し、在庫数も通常の4倍近くにまで増やした。
この販売員によると、クリスタルを小粒にして散りばめたものより、大きいクリスタルを加工した「いかにもクリスタル」と分かるネックレスや指輪が中国人に受けているという。「周囲に分かりやすく自慢できるからではないか」と分析している。
中国人は見栄を張るだけでなく、義理も持ち合わせている。商品選びに迷っている様子の男性客に「中国の年配の方々に人気の商品で、お土産に最適ですよ」と声をかけられると、数万円するネックレスを2個購入したという。母親だけでなく義理の母にもプレゼントするためで、「両方の親の顔を立てなければならない」(前述の販売員)という心理が働いたようだ。そんな義理・人情を揺さぶるセールストークも身に付けてはどうだろう。
五、日本式接客に感動
「百貨店の魅力をいかに訴求できるか。日本人に支持される店であれば、中国の方々にも支持されるはず」
日本百貨店協会の西田光宏企画開発部長は、「指差し会話集」の導入など中国人の受入れ体制を整える一方で、これまで築いてきた百貨店ブランドを打ち出すことの重要性を説く。
三越銀座店では店内表示の多言語化を進めているが、商品を売り込むための余計な中国語のPOPは作らない方針である。「中国のお客様は、日本人に認められている店で買うことがステータスと感じている」(仁田氏)という分析があるからだ。
今年発刊された『ミシュランガイド日本版』で三ツ星を獲得した銀座の和食店「小十」でも同様の話を聞いた。1人当たりの平均予算は2万~2.5万円の高級店だが、ミシュラン掲載をきっかけに、外国人客が殺到し、全体の2割を占めるまでになった。外国人客の6割近くが香港からの観光客だが、シンガポールや中国本土の富裕層も目立つようになったという。店主の奥田透氏は「日本のことを知ろうと思ってきている。香港や中国本土のお客さんは味覚も日本人に近いので、特別なことはしていません」といい、日本人と同じコース料理を提供している。
また日本流の接客は中国人にとってかなりの好印象を与えている。「何も買わなくても笑顔で接してくれるし、言葉が通じなくても親切に対応してくれる。商品を購入すると店の外まで見送ってくれるだけでも中国人は感動します」(中国の旅行会社)というように、当たり前の対応を心がければそれだけでも、満足度は高くなりそうだ。