事実上の拒否権を持つ挺対協
日本は民主党政権だった2012年春、▽首相が改めて謝罪を表明する▽駐韓日本大使が元慰安婦を訪ねて直接謝罪を伝える▽政府予算を使って元慰安婦への人道支援を行うーーという解決策を非公式の案として韓国政府に提示した。この案は、佐々江賢一郎外務事務次官(当時)が訪韓して伝えたため、韓国では「佐々江案」と呼ばれている。
日本側は「これ以上は絶対に無理」と伝えたが、韓国政府は「日本政府の法的責任を認めない人道支援という名目は受け入れられない」と拒否した。当時、韓国外交通商省(現外務省)の東北アジア局長として受け入れ拒否を強く主張した趙世暎氏は今、「日本の国家責任を認めていない案を、被害者と関連団体が受け入れるとは思えなかった」と理由を語る。
挺対協が、事実上の拒否権を持つにいたっているということだ。ただ、民主化以降の韓国社会の動きを考えてみると、それは必然の流れのように思える。
朝日新聞が吉田氏を繰り返し取り上げたことで、吉田氏を調子づけたという効果は大きいはずだ。極端な主張をする韓国の市民団体などに強制連行説の根拠の一つを提供したことも否定しがたい。それ以上に、一連の誤報と遅すぎた「検証」によって、日本国内における慰安婦問題に関する議論をゆがめてしまった。こうした点において、朝日新聞を批判するのは妥当だろう。だが、吉田証言に関する朝日新聞の報道が韓国のメディアや世論に大きな影響を与えたのかと問われれば、かなり大きな疑問が残るのである。