2024年4月26日(金)

韓国の「読み方」

2014年9月29日

金大中、盧武鉉政権で強まった市民団体の発言力

 朝日新聞の慰安婦問題を巡る、より大きな誤解は、「朝日新聞の報道がなければ外交問題化することなどなかった(はずだ)」というものだろう。もちろん、前述の「軍関与示す資料」の特ダネが日韓首脳会談で取り上げられたことで、一気に外交問題化したことは否定しがたい。ただ、韓国社会の内部事情を見ると、朝日新聞の報道がなくても慰安婦問題は出てきたと思われる。冷静に見るならば、朝日新聞の報道は、その時期を若干早めたに過ぎない。だから、朝日新聞の誤報取り消しは、韓国側にほとんどインパクトを与えていないのだ。

 韓国で慰安婦問題が大きな注目を集め始めたのは、87年の民主化以降のことだ。民主化で力をつけた市民運動家の一部が「次の課題」として取り組んだことが大きかった。大きな影響力を持つ支援団体、韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)も90年の設立で、主軸は今でも民主化運動出身者だ。朝日新聞による80年代の誤報が韓国社会に大きな影響を与えなかったのは、韓国社会自体が慰安婦問題に特別な関心を持ってはいなかったからなのだ。

 市民団体の取り組みが始まっても、すぐに影響力を持つようになるわけではない。93年に発足した金泳三政権は当初、日本に金銭的賠償を求めないと表明して市民団体とは距離を取った。だが、95年10月に村山富市首相(当時)が参院本会議で、韓国を植民地化した日韓併合条約について「法的に有効に締結された」と答弁したことが外交問題となった。

 当時の事情を知る韓国外務省関係者は、「参議院での答弁によって、(植民地支配と侵略に対する反省とおわびを表明した同年8月の)村山談話に対する肯定的評価など吹っ飛んでしまった」と振り返る。韓国側関係者は関連を否定するものの、金泳三政権の対日姿勢はこの頃から強硬になり、元慰安婦への償い金支給などを行ったアジア女性基金にも否定的な立場を取るようになった。

 98年に発足した金大中政権と次の盧武鉉政権では、民主化運動を担った勢力が政権中枢に入り、市民団体の発言力がさらに強まった。金大中政権では、大統領の政治的同志ともいえる存在だった大統領夫人、李姫鎬さんの存在も大きかったのではないかと指摘される。李さんは女性運動出身で、大統領選中の共同通信の取材に「慰安婦問題などは、韓国の市民運動が求めている方向で解決してほしい」と明言しているのだ。金大中政権では、女性省が創設され、女性運動出身者が女性相に任命された。

 韓国の市民団体は、金大中、盧武鉉両政権の時期に社会的影響力を確立したとされる。政権は08年に保守派に戻ったが、市民団体の影響力は健在だ。その中でも、女性の「性」というセンシティブな問題である慰安婦問題に長年取り組んできた挺対協は、極めて大きな影響力を持つようになった。


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