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2014年10月14日

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飯田将史 (いいだ・まさふみ)

防衛省防衛研究所 米欧ロシア研究室長

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程単位取得退学後、防衛庁防衛研究所に入所。スタンフォード大学東アジア研究専攻修士課程修了を経て、2020年より現職。専門は中国の外交・安全保障政策。

米軍の行動制約図る

 中国は、自国の周辺海域における米軍の行動を制約する動きも見せている。09年3月には、海南島の南方沖の南シナ海で、情報収集活動にあたっていた米海軍の音響観測艦「インペッカブル」に対して、中国の監視船や海軍の情報収集艦、漁船が航行を妨害する事件が発生した。

 13年12月には、南シナ海で中国の空母「遼寧」の訓練を監視していた米海軍の巡洋艦「カウペンス」に対して、中国海軍の揚陸艦が異常に接近し、その安全な航行を妨害した。いずれの事件についても、国際法で認められた「航行の自由」に基づく正当な活動に対する不当な妨害行為であるとし、米国は中国に対して抗議したが、中国は独自の主張に基づいてこれに反論した。

 また、人民解放軍は西太平洋における作戦能力の向上を図っている。13年10月に、人民解放軍は「機動5号」と呼ばれる大規模な統合実動演習を西太平洋で行った。北海艦隊と東海艦隊に所属する艦船は宮古海峡から、南海艦隊に所属する艦船はバシー海峡から、それぞれ「第1列島線」を「突破」して西太平洋に進出し、本土から飛来した早期警戒機や爆撃機も参加した実戦的な対抗演習を実施したのである。

 この演習は、中国軍の西太平洋における作戦能力が着実に向上していることを示すと同時に、有事において米海軍力の東アジア海域への接近の妨害を目指す、いわゆる「接近阻止・領域拒否(A2AD)」戦略の実現に向けた中国の強い意志を表しているといえるだろう。

 この数年間の中国による強硬な海洋進出と、その過程における力を背景にした現状変更への試みに直面して、米国や東アジア諸国の間では、中国に対する安全保障上の懸念が共有されつつある。

 武力の不行使や紛争の平和的解決、航行・飛行の自由、国際法の尊重などを柱とする既存の安全保障秩序の維持・強化を目指して、米国はアジアへの「リバランス(再均衡)」戦略を推進し始めた。東アジアにおける米国の同盟諸国は、いずれも米国との同盟関係を強化する事で、地域の安全保障秩序の維持に努力している。

 また、シンガポールやインドネシア、ベトナムといった国々も、米国との安全保障関係の強化を通じて、既存の安全保障秩序を維持するパートナーとしての役割を果たしている。

 総じていえば、中国以外のほとんどの地域諸国が、米国を中心とした既存の安全保障秩序の維持を望んでおり、中国による現状変更に向けた強硬な行動は、懸念を共有した地域諸国の連携を促進する結果を生んでいる。

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