胡錦濤指導部の後継問題が過熱するにつれ、尖閣諸島周辺に現れる中国船の数も増え、2010年9月には尖閣諸島の領海内で不法操業をした中国漁船が海上保安庁の巡視船に体当たりする事件が起こった。このような状況に適切に対応するためにも、日本政府は2012年9月に尖閣諸島の3つの島を民間の地権者から購入したが、それは胡錦濤指導部から習近平指導部への権力の移行が始まるという最も微妙な時期でもあった。周永康派閥からの無用な批判を避けるため、習近平指導部も引き続き日本に対して東シナ海問題で強硬姿勢を取り、原則合意にまで至っていた海上連絡メカニズムに関する協議も一方的に取りやめた。
今回、日中が対話再開に向けた動きを加速化させたのは7月に福田康夫元総理が訪中して習近平主席に会ってからであるが、周永康氏の汚職に関する公式な取り調べが始まったのも同じ7月であったことは決して偶然ではないであろう。中国国内の権力闘争に一応の目処がついたため、日本との対話の道が開けたのである。逆にいえば、今後の中国国内情勢によっては、中国が対話を一方的に取りやめる可能性は残っている。このため、中国との対話を行う際には常に中国国内の情勢を見極めておく必要がある。
再び強まる歴史認識に対する圧力
日本が注意すべきことは?
中国との危機管理を進める上でもう1つ気をつけなければならないのは、中国空軍の動きである。海上連絡メカニズムは基本的には海軍同士の枠組みであり、ホットラインと定期協議の設置、および艦船同士の通信方法に関して原則合意がなされている。しかし、2013年11月に中国が防空識別圏を設定して以来中国空軍の活動が活発化し、自衛隊の偵察機に30メートルの距離まで異常接近して、通常の偵察活動も妨害する案件が相次いでいる。中国は、中国周辺での外国軍による偵察活動を認めておらず、海上連絡メカニズムに関する協議の場を利用して、国際法上認められた自衛隊による東シナ海での偵察活動の中止を求めてくる可能性が高い。そうなれば、肝心な危機管理に関する協議が滞ることになりかねない。
米中は1990年代から軍同士の危機管理に関する協議を続けているが、2001年には両者の航空機が衝突する事件があり、それ以降も一触即発の事態を繰り返してきた。このため、日中間で危機管理に合意できても、それが危機の発生回避には直結しない可能性があることを忘れてはならない。しかし、米中間の協議の質は、徐々にではあるが確実に向上しており、日中間でも時間をかけて危機管理についての対話を続ける必要がある。
一方、2015年が第二次世界大戦終結70周年であるため、中国が歴史認識に関して日本への圧力を強めることが予想される。このため、来年にかけて、今回「若干」の認識の一致しかできなかった歴史認識をめぐって日中関係が再び不安定化するかもしれない。今回の「4点合意」に反して日本政府が歴史を否定していると批判する口実を中国政府に与えないようにすることに細心の注意を払うことが重要である。この点をふまえて、日本政府は2015年に向けてどのような歴史に関するメッセージを国際社会に発信していくのかを検討するべきである。
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