2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年11月19日

 中国は、9つの核兵器国で唯一、核兵器の先制不使用を、公式に、無条件に宣言した国である。しかし、この宣言には、多くの疑問が残る。先制不使用ということは、第二打の報復措置としての核兵器使用を意味する。しかし、一般的には、中国の戦略核、弾道ミサイル早期警戒システム及び指揮統制システムは、報復攻撃には充分効果的ではない、と言われる。それ故、外国の専門家達は、中国の公式表明は、プロパガンダにすぎないと見ている。それは、1982年のソ連の核の先制不使用宣言と同様であり、実際の作戦計画を反映していない。おそらく、中国の指導者は、核ないし大戦争が不可避と判断すれば、先制攻撃も辞さないだろう。が同時に、中国には、報復攻撃の計画もあるのだろう。多数の核ミサイルを地下に貯蔵しているということは、中国の核軍備は地上で目に見える量よりもずっと多いことを意味し、抑止効果が大きくなる。

 国連常任理事国かつNPT条約で認められた核5大国の中で、中国のみが唯一、核軍備及び核開発計画に関するデータを公表していない。他の核兵器国は、中国のGDP、防衛予算及び核軍備が比較的小さい間は、この状況を許してきた。しかし、今日、中国は経済大国になり、核及び通常兵器の近代化も進めている。

 弾道ミサイル防衛(BMD)システムは、表だっては、北朝鮮のミサイルへの対抗策として開発されたが、中国の核軍備の拡張は、米国及びその同盟諸国がBMDを導入する誘因となろう。米国のBMD計画は、中国にとって主要な懸案事項である。中国は、米国のBMDを狂わす衛星破壊兵器や独自のBMDを開発している。

 中国は、世界で唯一、今後10-15年以内に、戦略核で米露に対抗し、破壊計画を遂行できる経済的、技術的能力を有する国である。だからこそ、新START(戦略兵器削減条約)に続く戦略兵器限定交渉を米露が行う際には、中国の核軍備及びその開発計画を考慮することが必要である。英仏の核は削減され、透明性が高く予測可能である。両国には、将来、核軍備を急増させる能力も意図もない。イスラエル、パキスタン及びインドの核は米露に向いていないし、そうしたくても経済的、技術的に無理である。北朝鮮にはその意図はあり、近隣諸国の脅威となるが、世界の戦略バランスを変えるほどの能力はない。

 また、中国は、情報開示に非協力的である。中国は、自国の核軍備に関する透明性を向上させる前に、まず米国が核の先制不使用を約束すべきだと言う。

 様々な障害はあるが、中国を漸進的に核軍備交渉に関与させることは可能であるように思える。もし米中両国に、核軍縮の合意に達する意思があるならば、その1つの方法は、核弾頭全体の上限を設定することだろう。おそらく、ICBM(大陸間弾道ミサイル)、IRBM(中距離弾道ミサイル)、SRBM(短距離弾道ミサイル)を含めて、400-500という水準だろう。米国は、ソ連とのINF条約で、IRBM 及びSRBMを削減しているので、420-450のミニットマンⅢ(ICBM)を維持することになり、中国は、同種のものを480保持するのだろう。


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