2024年7月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年11月19日

 いずれにせよ、この論文に見られる彼の提言は次の意味を持ち得ます。

(1)ウクライナ絡みの対ロ制裁がロシアを対中依存の方向に追いやりつつある中で、核兵器削減多国間交渉を始めれば、ロシアはその中で主要な主体的プレーヤーとして返り咲くことができます。また、プーチン大統領やロゴージン副首相は最近、「ロシアは斬新な核兵器を近く配備する」と述べており、右配備と同時に核削減交渉の再開を米国に呼びかける(というか、これまでの米国からの呼びかけに応ずる)ことが考えられます。

(2)ロシアは返す刀で、「中距離核ミサイル(INF)」の復活を実現できるかもしれません。INFは1987年、米国との間の条約で米ソ双方とも完全撤廃に踏み切ったものですが、その結果中国、イラン、北朝鮮等が同種の戦力を備えるに至ったにもかかわらず、ロシア側は抑止手段を持てない状況に置かれています。ロシアの要人はこれまで何回も、ロシアはINFの復活を欲していることを公言しています。アルバートフはこの論文で、「長距離、中距離、短距離、すべてを一緒にして総量を制限する」案を披露していて、これはINF配備を正当化する効果を持ちます。日本は、ロシアが中国を念頭にINFをシベリア、極東に配備する場合のプラス、マイナスを検討しておく必要があります。

 中国を核軍縮交渉に関与させようとの提案は、日本としても、歓迎すべきことです。但し、実際に中国を核軍備管理プロセスに関与させるには、米国の譲歩が必要だという点は、ロシアらしい見解で、日本としては受け入れ難いものです。中国の核が日本や台湾に向けて配備されているとすれば、なおさらのことです。「唯一の被爆国」である日本は、機会があれば、ロシアのプーチン大統領や、核廃絶の演説を行いノーベル平和賞を受賞したオバマ大統領に、核軍縮に中国を関与させるべく提案したら良いでしょう。

 ただ、ここで注意しなければならないのは、東アジア方面においては、米国による対中「核の傘」が薄くなっていることです。中国に核兵器削減を働きかけるのはいいですが、呼び水として米国の核戦力を最初に削減するようなことは本末転倒です。

  
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