2024年11月21日(木)

WEDGE REPORT

2014年11月21日

 中国にとっては、言うまでもなく、16年の総統選でも、大陸との関係を重視する国民党から指導者が選出されることが望ましい。しかし昨今の台湾内部における馬政権に対する支持率低迷を鑑みれば、16年の総統選・立法院選で政権交代が起こる可能性は無視できない。中国は、以前は独立を掲げる民進党との交流を拒絶してきたが、最近では、民進党との関係構築に布石を打っている。人気も高く、民進党の若手ホープである頼清徳・台南市長を大陸に招いたり、また張志軍が6月に訪台した際には、大陸への反発が強い南部にも赴き、民進党の実力者である陳菊・高雄市長とも会談を行った。

中国の張志軍(左)と民進党の実力者である陳菊・高雄市長(右)(REUTERS/AFRO)

 ただし、民進党が独立を目指す党綱領を掲げている限り、党対党の交流は行わないという方針は変えていない。民進党が政権をとった場合に備え、民進党との間でも一定の意思疎通を図るべきだという考えがある一方、民進党に対し融和策をとりすぎると「民進党が政権をとっても、中台関係にさして悪影響はない」と台湾民衆が考えるようになってしまう危険がある。あくまで国民党が政権をとることを望む中国にとって、民進党を無視はできないが、本格的な関係構築に乗り出すことは当面ないと予想される。

 いまや、世界のどの国も、中国と武力衝突や深刻な対立を引き起こすことは望まないようになっている。台湾の独立を強く訴えた陳水扁・前総統は、アメリカから「トラブルメーカー」と見なされ、馬英九はその教訓から「三不政策(中国と統一しない、独立しない、武力行使しない)」を掲げるようになり、台湾が独立する可能性は極めて小さくなった。そして台湾経済はますます中国に依存するようになっている。

 しかし、台湾の人々の考え方は、中国側が望むように変化していない。台湾の世論調査によれば、台湾の地位について、(1)独立すべきか、(2)中国と統一すべきか、(3)現状維持すべきか、という質問に対する回答は、この十年間であまり変化しておらず、現状維持と答える人が相変わらず8割以上を占めている。

 しかし、アイデンティティに関する質問で、(1)台湾人か、(2)中国人か、(3)その両方なのか、に対する答えは、この十年で大きな変化が生じた。2000年代半ばには、(1)と(3)がほぼ同数でともに4割強であったのが、今では台湾人と答える人が60.4%、両方と答える人は32.7%、中国人と答える人はわずかに3.5%にすぎない。また、現状維持すべきという回答の中身についても、よく見ると「現状維持をしながらいずれ独立を目指す」という答えが漸増している。中国との経済関係は深化したが、台湾人としてのアイデンティティはむしろ強化されている。


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