2024年11月21日(木)

都会に根を張る一店舗主義

2014年12月17日

利き酒はもちろん、利きそばを楽しめる店

 ここには『利きそば』があり、季節によって変わる二種のおそばの食べ比べができる。世界一そば好きの日本人だが、実は国内で消費されるそばの約8割は、安価な輸入品。そば屋は数多あれど、国産そばを使う店は、それだけで希少なのだ。そんなこともあって、産地の内訳までは考えたことがなかったが、その2割の国内産のうち、北海道の富良野中心に栽培されるキタワセソバ、長野県の信濃一号、山形県の最上早生といったもの、収量も多い栽培種が、その大半だそうだ。時々、耳にする高地でしか育たない、ルチンが豊富なダッタンそば(タタール人がなまったもの)も、原料はほぼ雲南省からの輸入らしい。

利きそば。左が栃木県益子の常陸秋そば、茨城の金砂郷在来の選抜育成品種だ。右が金砂郷のお隣、茨城県旧水府村産の幻の水府在来を、在来農法である手刈り天日干しにした希少なもの。菊谷氏曰く、打ち上げた益子の蕎麦からは、訪れた金砂郷の力強い土質や空気感を感じ、水府の蕎麦も同様に流れる川の清々しさ等を感じることができるという

 だが昨今、この各地に残る在来そばが注目されている。粒も小さめで、収量も劣るけれど、味や香りのヴァリエーションが豊かで実に面白い、と菊谷さんはいう。

 この日の『利きそば』一枚めは、栃木の常陸秋そば。良い意味で土くささがあり、腰のしっかりとしたそば。二枚めは、茨城在来の天日干し。色はやや薄めだが、ほんのり甘味があり、風味もまろやか。決して、そば通ではない私にも、こうやって食べ比べしてみると、違いは歴然。

石臼でそばをひく。ひき立ては香りが違う

 「天日干しすると、追熟するわけですから、やっぱり味や香りにも深みが出てきますね。ただ農家の手間が大変で、これをやる人は本当にわずかです。そもそもそば農家に通うようになったきっかけは、『神田和泉屋』の日本酒を楽しむ会、アル中学の同窓生の集まりです。利き酒をし、作り方を学び、酒蔵を訪れるという会(アルコール中学、略してアル中学、2009年~)ですが、平成22年、段取りも大変だし、地元の協力者の高齢化などで『神田和泉屋』さんもやめるというので、ならば僕がせめて、そのそば畑だけでも引き継ごうとなった。ちょうど、お手伝いに行った茨城県の『慈久庵』の小川宣夫さんにも、“これからのそば屋は、畑くらいやってなければいけない”なんて言われていた頃でした。そんなこともあって、これは僕に継げってことかな、と思ってしまって」

 秩父のそば畑にお客さんや友人たちと通い始めて4年めになる。農家から借りている畑は6~7畝。そこでは秩父在来を育てている。

 「秩父在来は、ミネラルっぽい風味、それが特徴ですね」


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