もう何年も前のこと、群馬県の少林山達磨寺で黄檗宗の卓袱料理をいただいた。江戸前期に中国の禅僧が伝えた料理で、住職によれば、日本独自の卓袱台の発明にも一役買っているのだという。それまで、日本人は個々、お膳と向き合って食事をするのが常だった。そこに中国の僧が、食卓を囲む大皿料理を持ち込んだ。ところが、このテーブルの脚で畳が擦り切れてしまうと、思い切って脚を短く切ってみたことから卓袱台の前身が生れた、という。
それから住職は、こう言って笑った。
「近頃、よく食の欧米化なんて言われますが、本当はその前に食の中国化だったんですな」
なるほど、世界遺産に登録された和食も、その要の調味料、味噌や醤油も、それに納豆や豆腐といった素材も、みな中国伝来。緑茶もそうだし、黄檗宗の祖、隠元などは豆も伝えたとされている。こうして食文化だけ見ても、中国は母なる大国なのである。
ならば体に良い「薬膳」、「医食同源」のルーツも中華料理に探れはしないだろうか。
前置きが長くなったが、そこでたどり着いたのが、新宿御苑駅から歩いて3分、御苑の緑に面した静かな通りに立つ“薬膳中華”『古月』だった。
新宿御苑に面した通りに立つ薬膳中華『古月』
梅雨の最中、食養生コースをいただいた
ランチは混みそうだし、せっかくなので、夜の食養生コースにしてみた。
まず料理を待つ間、自家製養生酒をいただく。生姜とミントを使った仔姜薄荷酒、仏手柑やハツメ、ハトムギを使った仏手紅棗薏米生姜金柑酒など季節に応じて変わる。昨年、養生酒を始めるまでは、料理長の前田克紀さんによれば、幾つかの越えるべきハードルがあった。