2024年11月23日(土)

田部康喜のTV読本

2015年1月14日

 父親の遺言状は「すまん、借金はするな」であった。

 そうした間に母親の三保子(木野花)が脳出血で倒れる。不幸はたたみかけるように訪れるものである。

 外資系証券会社のエリート、中小企業の経営者、その従業員たち、高校教師、契約社員……カネをめぐる時代相は人々を不幸にたたき込む。

 資本主義、といえば大仰になる。しょせんカネはカネ、といってしまってはみもふたもない。

 映画の興行がヒットしたうえに、原作もベストセラー化している「紙の月」は、主婦の契約社員の銀行員が、老人からカネを騙し取って、大学生の愛人に貢ぐ。エリートサラリーマンの夫との日常に忍び込んだ、カネの魔力である。

 カネは紙であるが、それは神となる。カネの物神化である。

脇役陣の軽妙でユーモラスな演技

 「銭の戦争」はときに、闇金の業者によって、富生が襲撃されるような暗部も描いているが、大杉漣をはじめとする脇役陣が軽妙にユーモラスな演技を繰り広げて、その緩急の進展が飽きさせない。

 そもそも妹夫婦の多額な借金を肩代わりするのは、深刻な事態だが、闇金業者の赤松大介(渡部篤郎)の巧みな話術に乗せられてしまう。

 この赤松は、富生の父の中小企業の秘密を握っている。事務所の金庫に大事そうに、封筒に入った関連の書類をしまい込むのだった。

 赤松役の渡部もまた、コミカルな悪役である。

 一万円札にアイロンをかけてしわをのばすと、鼻にもっていって匂いをかぐ。人々の喜怒哀楽の匂いがするというのである。

 大島演じる未央が、コンビニの買い物の帰りに500円玉を落とす。転がった硬貨は、借金の金策に窮して道端にすわりこむ富生の近くにころがる。富生は靴で踏んで隠す。

 「足を上げて」という未央に、「断る」と富生。

 「どろぼう」。


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