どんなカタルシスをもたらすのか
ドラマはどん底に落ちた男の復活劇なのだろうか。あるいは、カネによって成り立つ幸せの幻影からめざめる物語なのであろうか。
富生は、梢の祖母である青島早和子(ジュディ・オング)から、婚約を解消して二度と会わないことを条件にして、1000万円を受け取る。しかし、それも闇金業者に強奪される。
そんな富生を心配して、カネを届ける梢にこう告げる。
「自分はひとに優しいと思っていた。それはカネがあったからだ。それがよくわかった。カネをもっている女とつきあってよかったよ。ありがとう」
憤然として、背中をみせて帰ろうとする梢を呼びとめる。
「カネを置いていけよ」
カネの入った封筒を富生に投げつける梢。一万円札がバラバラになって飛び散る。
「これでおやじの葬式が出せるよ」
ドラマは観る人にカタルシスをもたらさなければならない。それは登場人物に見る人の心が重ね合わされ、感情移入が起きて、快感が起きるのである。
「銭の戦争」の登場人物は多彩であるから、観る人はどれかに自らの人生を重ねることができると思う。
父親の葬儀会場で、従業員や債権者たちに向かって、カネを稼いでみせる、と富生は宣言する。しかしながら、エンディングまでのドラマの進展は単純なものではないだろう。そして、観客のカタルシスもまた深くかつ複雑なものとなるのではないか。
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