2022年9月26日(月)

オトナの教養 週末の一冊

2015年1月16日

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中村宏之 (なかむら・ひろゆき)

ジャーナリスト

1967年生まれ。91年、慶應義塾大学経済学部卒、読売新聞東京本社入社。ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスク、調査研究本部主任研究員などを経て2017年4月より読売新聞東京本社メディア局編集部次長。『御社の寿命』、『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』、(いずれも中央公論新社)など

 そして本書の書名にもあるように、ロシアがアジアをめざす様子が紹介されている部分では、「“アジアの国“になろうとしている」という指摘に目を開かれる思いがした。そして、それが長年にわたって準備されてきた結果でもあることがわかり、納得させられる。2012年のウラジオストックでのAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議しかり、近年の極東開発しかりである。

クリミアがからむ「歴史の奇妙なめぐりあわせ」

 さらにこうした動きの背後にあるのが、エネルギーを日本など東アジアに売りたいというロシアの思惑だ。これまでエネルギー輸出の半分は西のヨーロッパ市場向けだったが、限界も見えてきた。そこで東に向かうということだが、「中国のエネルギー基地にはなりたくない」という警戒も働いているという著者の指摘は参考になる。またプーチンが極東に注目する理由は複雑な思想がからみあっており、著者の指摘するように、純粋な経済合理性を超えたロジックがあるという特殊性もあるのだろう。

 ロシアがエネルギー大国であるということは言うまでもないが、ロシアに「北のサウジアラビア」を脱したい思いが強いという著者の指摘は、ロシアがエネルギー以外の産業育成に真剣になっていることを考える上で非常に興味深い。最近の原油価格の急落を受け、資源輸出に依存する新興国では通貨が急落する「逆オイルショック」とも言える様相を呈している。ロシアのルーブル下落はまさにその象徴だ。エネルギー以外の産業を目指し、「日本と組みたい」というロシアの存在が意識され始めていることは最近の流れでも理解できる。さらに日本はアメリカの同盟国であり、ロシアは「安全保障抜き」の「経済オンリー」の姿勢で日本と向き合えるという指摘も鋭い。

 安倍首相とプーチン大統領は個人的な信頼関係があるとされ、第3次安倍内閣では北方領土を問題を含めたロシアとの関係をどう変化させてゆくのかに注目が集まっている。そうした意味で、本書の最後で著者が指摘した「歴史の奇妙なめぐりあわせ」というのは非常に示唆的であり、かつまた大いに予言的だ。日本とロシアの領土問題の大きな転機には必ずクリミア半島がからんできたというのだ。1853年から1856年のクリミア戦争、1945年のヤルタ会談、そして2014年のクリミア編入とウクライナ問題。おおむね一世紀に一度のタイミングで動いてきた世界史の流れとともに日露関係も変化してきた。専門家ならずとも、今後の日ロ関係の進展には興味が尽きない。

 ロシアを舞台に「歴史の潮流」を感じることのできる重厚な一冊である。

  
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