2024年7月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年2月9日

 内憂では、王位継承と失業が大きな問題です。記事は、アブドラ国王が死去する前に書かれたものですが、1月23日にアブドラ国王が死去し、サルマン王子が王位を継いでいます。そして、ムクリン王子が皇太子となり、副皇太子には、記事も指摘している、次世代のムハンマド王子が任命されました。サウジの王室が、安定的王位継承を最優先した結果と言えます。

 王室の次の世代については、ムハンマド王子に加え、サウド外相、バンダル前情報庁長官、トゥルキー元情報庁長官などの有力者を含む何百人もの王子がひしめくとのことであり、これまでの王位継承の方式がスムーズにいかなくなる恐れがあります。「何が起きても不思議ではない」という記事の表現もあながち誇張ではないと思います。

 失業については、サウジ中央統計情報局によれば、15歳以上の失業率は約12%となっていますが、女性の失業率は35%前後にまで達しています。サウジには600万人とも1,000万人ともいわれる外国人労働者がいます。彼らは、高度な技術を要する職か、いわゆる3K的職業に就いています。サウジ政府はサウジ人の雇用を進めるため、いわゆる“Saudization”(サウジ人化)政策を推進していますが、効果はあまり上がっていません。失業率が高いにもかかわらず社会的不安が高まらないのは、教育費、医療費が無料、電気、水、ガソリンなど生活必需物資の料金が安いなど、政府の財政負担で世界にまれな福祉国家を作り上げていることが大きな理由です。

 最近の原油価格の下落については、サウジの原油生産コストは極端に低いので石油採掘に与える影響は軽微ですが、サウジの国家予算はバレルあたり67ドルを前提としているとの推定があり、50ドルを切ってくるようだと、福祉政策に影響が出る恐れがあり、失業が社会問題化する恐れがあります。

 外患の中では、「ISIS(イスラム国)」の影響が懸念されます。そもそも、サウジにはイスラム過激派が育ちやすい土壌と言えるものがあります。サウジの国教のワッハーブ主義は、イスラムの本来の教えに戻って世直しをするというイスラム原理主義の原点です。9.11テロの攻撃に参加した者の大半がサウジ人であったと報じられています。オサマ・ビン・ラディンもサウジ人でした。サウジ政府はISISの分子がサウジ国内でテロを起こし、それがサウジ国内で波及するのを恐れており、ISISの封じ込めのため、有志国との連携を一層強めることになるでしょう。

  
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