2024年11月22日(金)

この熱き人々

2015年2月18日

 「ライブで聴いて、探し当てて訪ねて行きました。盲目の瞽女が生きるために三味線を弾き歌う。上手にではなく必死に歌う。野山を越え、地べたを這(は)うように門づけをして生きる糧を得る。日本でこういうふうに生きた女たち、こういう芸人がいて、そこから生まれた歌がある。その歌を、ぜひ教えてもらい覚えたいと思ったんです」

 まだまだ知らないものがたくさんある。故郷の熊本で祖母が米粉を石臼で挽きながら歌っていた歌がかすかに耳に残っているが、もう誰も歌えない。消えていこうとする歌を、今だからぎりぎり触れ合える歌を探ってみたいのだと言う。歌ばかりでなく、そのアンテナは何と落語にまで伸びて、13年の明治座公演では「芝浜」の導入部を披露している。高座名は「石川亭さゆの輔」。「落語は芸能の中で最も不自由なもの、不自由だからこそ深さがある」という立川志の輔の言葉が石川の心をつかみ、教えを乞うた。

 「志の輔師匠にくらいつきまして。今も続けています。聞きたい、知りたいものがいっぱいあるんですよね。それを自分の体の内に取り込みたい。体を通してみたい。私は芸能者ですから。本能なのかな」

 芸能者ーー歌手ではなく芸能者と言った。飽くなき挑戦は、芸能者の本能が騒ぐゆえ。小柄でもの静かな目の前の石川を突き破るように、芸の本能に忠実に、真っ白い雪の中でも赤い炎の中でも進んでいく、身の内に息づく激しい魂が見えたような……そして、その魂をどこまでも追いかけて見届けたい思いにかられた。

(写真・杉山雅史)

石川さゆり(いしかわ・さゆり)
1958年、熊本県生まれ。73年、15歳で歌手としてデビュー。77年、「津軽海峡・冬景色」で日本レコード大賞歌唱賞受賞、紅白歌合戦に初出場。以来、「天城越え」「風の盆恋歌」など数々のヒットを出し日本を代表する歌い手に。1月21日に通算116枚目となるシングル「あぁ・・・ あんた川」をリリースした。

  
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◆「ひととき」2015年1月号より

 


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