旧ソ連の中で最も小さく、人口も一番少ない国であるアルメニアとのカラバフ戦争で、当時のアゼルバイジャン大統領が反ロシア的姿勢を取ったために、ロシアがアルメニア側についてしまったことで負け、国土の20パーセント近くをアルメニア系住民に取られました。またディアスポラの民と言われ、世界中に散らばっているアルメニア人が、特にアメリカで強力な政治力を発揮し、経済制裁まで発動されてしまったため、石油と天然ガスの輸出が波に乗るまではかなり厳しい経済状況でした。
――世界中に散らばり、強力な政治力を持つというイメージはユダヤ人と重なります。
廣瀬:アルメニア人は、よくユダヤ人になぞられますね。本土より、世界中にたくさんのアルメニア人がいますし、頭がよく、商才に長けているだけでなく、芸術にも長けているなどという共通点があります。たとえば、国際的な高級ホテルグループのハイアットホテル&リゾーツはアルメニア系のグループです。
また、先ほどお話したアゼルバイジャンに対するアメリカの経済制裁では、アゼルバイジャンのためにユダヤ系とオイルロビーが動いたにもかかわらず、経済制裁を撤回できないほどの力も持っています。
――ユダヤ系のロビーとオイルロビーが束になっても敵わないとはすごい政治力ですね。未承認国家へは行かれたことはありますか? やはり雰囲気は違うものですか?
廣瀬:国にもよります。沿ドニエストル・モルドヴァ共和国という未承認国家は、至る所にレーニン像が掲げられていますし、「国旗」や「国章」はまさにソ連時代のそれといった感じです。私が大人になる頃には、ソ連は崩壊していましたから、ソ連に行ったことはないのですが、イメージするソ連の姿という感じがありますね。
また、未承認国家やウズベキスタンやトルクメニスタンなどの権威主義国家では、今でもビジネスで出張をしている人や外交官のみならず、学者ですら盗聴されることも珍しくありません。私自身も経験があります。
――まだ訪れたことがない未承認国家は?
廣瀬:最初にお話ししたナゴルノ・カラバフはまだありません。私の知り合いでもアルメニアだけに関心がある人はわりと簡単に、パスポートに挟み込むだけで後で証拠が残らないビザや、時にはビザなしで入っています。しかし、私の場合、一度ナゴルノ・カラバフの現実を調査したいと思い、訪問を試みたのですが、アゼルバイジャン研究者として名が通ってしまっているためか、ナゴルノ・カラバフの「領事館」がビザをパスポートに貼ることを必須としてきまして、それにその行為がアゼルバイジャンの主権の侵害になることになることもよくわかっていましたから、同地がアゼルバイジャンに返還されるまでは訪問しないと決意しました。