――いまお話を伺った国々は、すべて旧ソ連地域です。未承認国家がその地域に多い理由とはなんでしょうか?
廣瀬:ひとつは、未承認国家を抱えている国々は反ロシアの立場をとっているということがあります(アゼルバイジャンは極端な反ロシア路線は出さず、バランス外交を展開しています)。ロシアは、旧ソ連地域を明確に外交政策上の「勢力圏」ないし「影響圏」とし、その地域を堅持していかなければならないとしています。そうすると、反ロシア的な国々は邪魔でしかありません。勢力圏を守るために、ロシアが使う手段は、政治、経済、エネルギー、未承認国家の4つがあります。
特にアゼルバイジャン以外の国々には資源がありませんから、エネルギーの値上げなどをちらつかせて極端な離反をさせない。また08年にグルジア紛争が起きましたが、放っておけば、グルジアがNATOに加盟しそうな状況でしたから、南オセチアを利用し戦争を起こさせました。そうした不安定な国々が、もしNATOに加盟すれば、NATOには共同防衛の義務があるため、NATOはロシアと戦わなければならなくなる。NATO側としてはそれは避けたいわけです。ロシアとしても、そうした不安定な地域に干渉することで、NATOが引くと考えているんです。昨年から大きな問題となっているロシアのクリミア編入やウクライナ東部への介入も、親欧米路線をとるウクライナ新政権のEU、そして特にNATOへの加盟を阻止するということが最大の目的であることは間違いありません。
また、旧ソ連やユーゴスラビアが解体したときに、「ソ連やユーゴスラヴィアなどの連邦を解体しても、それら連邦を構成しているロシアやアゼルバイジャンなどの共和国の国境を崩さない」と国際的に取決めました。そういう原則がある以上、本来であれば南オセチアもナゴルノ・カラバフも国家として承認されず、未承認国家になるしかないはずなのです。とはいえ、旧ユーゴスラビアのコソボは例外的に多くの国から国家承認をされてしまい、それが未承認国家問題を解決する上での「悪しき前例」となってしまいましたが…。
――ロシアに編入させたり、未承認国家として独立させる過程で、ロシア側が裏で仕掛けていたりもするのでしょうか?
廣瀬:ウクライナから独立し、ロシアに編入されたクリミアは未承認国家の亜種だと思います。編入という形をとってはいますが、その間に未承認国家のプロセスが入っているんです。
まずクリミアで独立の是非を問う住民投票が行われ、その直後にロシアがクリミアを国家として承認し、その後にロシアへの編入を決定しているんです。もし、クリミアがウクライナの一部として独立していない状況で、ロシアが編入すると、国際法違反に当たります。しかし、独立した主権国家間同士による合意であれば、ある地域を編入しても合法です。だから、ロシアは国際法違反はしていないと主張している。
ただ、独立を問うたクリミアでの住民投票自体、ウクライナ政府が認めていない以上、そもそも非合法であったとも言えます。